『幽幻道士(キョンシーズ)』の"テンテン"ことシャドウ・リュウ、台湾総統選を語る
ルポライター・安田峰俊氏が、今月13日に投開票が行なわれる台湾総統選について、ある台湾人に"本音"を聞いた。その人とは日本では‟テンテン"の名で知られる台湾人タレントのシャドウ・リュウ氏だ。 【写真】シャドウ・リュウ氏の活動拠点となっている選挙事務所内の様子 * * * 1980年代後半、日本でキョンシー映画が大ブームだったことはご存知だろうか。キョンシーはつまり中国版のゾンビだが、当時の人気を支えたのはホラーだけが理由ではない。台湾で制作された映画『幽幻道士(キョンシーズ)』シリーズの主人公、美少女道士のテンテンが、人々の心をつかんだのである。 当時の日本ではあまりのテンテン人気から、彼女が主人公の『来来! キョンシーズ』というTBSが制作協力した連続ドラマが、ゴールデンタイムに放送されていたほどだ。往年の筆者を含め、この時期の小学生は誰もが、両手を前に突き出して膝を曲げずにジャンプするキョンシーの動作を真似して遊んでいたものである。 このテンテンを演じた名子役が、台湾人の劉致妤(シャドウ・リュウ)だ。彼女はその後も、日本と台湾で生活拠点を何度か移しながら芸能活動を続けてきたが、2000年代後半以降は台湾に定住。現在は台北市内で暮らしている。 いっぽう、最近の台湾の最大の話題といえば、今月13日(土)に投開票がおこなわれる総統選(大統領選挙に相当)だ。選挙戦は台湾アイデンティティを重視する与党・民主進歩党の頼清徳と、中華民国アイデンティティを重視する最大野党の侯友宜、さらに第三極の台湾民衆党の柯文哲の三候補の戦いとなっている。 大人になったテンテンこと劉致妤も、いまや台湾の有権者のひとりだ。そこで、現地で会って近況を訪ねつつ、台湾の政治や総統選について聞いてみることにした(なお、今回の記事では本人の許可を得て、彼女の名前は日本での旧芸名でもある「テンテン」と書くことにする)。 ■ソーシャルワーカーは政治に無関心でいられない 1月9日、 私が向かったのは台北最大のナイトマーケット(士林夜市)にほど近い下町だった。取材先に指定された住所を尋ねると、なんと、この地区で現職の市議から立法院選に鞍替えして立候補中である無所属系のHという若い候補者の選挙事務所があった。 入り口で選挙用のビラを整理中のスタッフたちに事情を話すと、建物からラフなパーカー姿にサンダル履きの女性が出てきた。彼女こそ、現在のテンテンだ。近況を尋ねる。 「ボランティアでDVやホームレス問題の解決や高齢者の生活支援に取り組んでいるんです。この事務所のH候補者は、市議に立候補する前はYouTuberだったんですが、私はその当時から彼の仕事を手伝っていて」 20代からそうした社会活動を行なっているという。2018年にHが市議に当選してからは活動の上でもお世話になることが多く、 ソーシャルワーカーとしての拠点を事務所内に置かせてもらっている。 「台湾のソーシャルワーカーの組織は、たいてい緑色(民進党系)か藍色(国民党系)の系統。私はそれが性に合わなくて、フリーでやっているんです」 テンテンは現在も芸能活動を続けており、日本の映画に出ることもある。だが、芸能人が選挙を手伝ったり政治的発言を行なったりするのは、日本と違い台湾ではごく普通のことだ。 「ソーシャルワーカーとして活動する上では、政治に対して無関係ではいられないんです。条例や規制が、台北市と別の市で違ったりして、勉強しなくてはいけないし。議会でどの議員が誰に社会政策を指示しているか、といったこともわかっていないといけない」