「前向きで背中を押してくれる条文」渡辺ペコさんが語る『1122』の冒頭に憲法第24条を入れたワケ
憲法第24条を通して伝えたかったこと
――冒頭で日本国憲法第24条が映されていました。漫画と共通する部分ですが、憲法を入れた意図をお伺いしたいです。 憲法についての本を読んでいたときに、第24条の条文に目が止まりました。婚姻関係について、両者の平等とお互いの協力が根底にあるのだと明文化していることにとても感銘を受けました。おこがましいですが、自分の考える「結婚」のイメージと近いものが提示されているように感じてこれはアツいなと。それで冒頭に持ってきたいと思いました。 ――24条の第1項には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とあります。 個人の尊重と男女平等の実現を目的とする第24条には「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と定めています。両性という言葉から、憲法は同性婚を禁止しているという主張があるのも知っていますが、私は「両性=すべての性の両当事者」という意味であると理解しています。同性婚は憲法違反であるとは思っていませんし、憲法を改正する必要はなく、法律を変えることで同性婚は認められるべきであると思っています。この第24条の条文自体は、とても前向きで背中を押してくれるような文言だと感じます。読んだときに、ぐっときてしまいました。 ――旧民法では家制度のもと、結婚には当事者の意思だけでなく、戸主による同意も必要とされていました。これを廃止し、女性は財産を持てないなど女性を差別していた家族に関する法制度も改めて、男女平等を保障したのが、この憲法第24条です。 私は結婚をロマンスの結果とも打算とも捉えていなくて、お互いが向き合って維持していくものだと考えていたので、この条文に感銘を受けました。「こういうことを伝える漫画です」ということがわかりやすく伝わればいいなと思い、冒頭で出しています。 渡辺ペコ(わたなべ・ぺこ) 漫画家。北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLORS」(集英社)にて『透明少女』でデビュー。以後、女性誌を中心に活躍。繊細で鋭い心理描写と絶妙なユーモア、透明感あふれる絵柄で、多くの読者の支持を集める。2009年、『ラウンダバウト』(集英社)が第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選ばれる。2020年に完結した『1122(いいふうふ)』(講談社)は、夫婦とは何かを問いかける話題作として大きな注目を集め、現在累計146万部を超えている。その他の著書に『にこたま』(講談社)、『東京膜』『ボーダー』(集英社)、『変身ものがたり』(秋田書店)、『昨夜のカレー、明日のパン』(原作 木皿泉/幻冬舎)、『おふろどうぞ』(太田出版)などがある。現在、「モーニング・ツー」(講談社)にて『恋じゃねえから』を連載中。
綿貫大介