難聴は認知機能の低下を引き起こす?~改善できる危険因子・難聴①
難聴と認知症
では、難聴になるとどうして認知症になる可能性が高まるのだろうか。 長年、聴覚研究に携わってこられ、現在は「オトクリニック東京」で院長を勤めている慶應大学名誉教授の小川郁先生に伺った。 「難聴になることが、イコール認知症に結びつくのではありません。難聴によって、コミュニケーションが少なくなったり、やる気がそがれて意欲を失ったりしていくことが結果的に認知症を引き起こしていくのです。 私たちの情報の8割は視覚から入ると言われていますが、耳からの情報はコミュニケーションを司っているという意味で、そして情動の引き金になるという意味でとても大事です。 “聞こえ”の裏側には“言葉”があり、私たちは言葉を聞いて、頭の中でその言葉を理解し、自分の言葉として相手に返しています。聞いた言葉を理解する際には、必ず楽しい、悲しい、嬉しい、不快だといった感情が伴います。よって、耳からの情報は“情動”の引き金にもなります。つまり、“聞こえ”は、人としての様々や想いや気持ちも生み出しているのです」(小川先生、以下同) なるほど!「コミュニケーション」に関するイメージはある程度想像できていたが、情動の「引き金」というか「入口」になっているというのは、指摘されてハッとさせられたし、腑に落ちた。「音」が想像力をかき立てたり、感情を揺さぶったりするというのは、音楽やラジオの声を聞いて「感じるものがある」ということからも想像できる気がしたのだ。そして、音が私たちの感情を想起させ、言葉を生むとするならば、それは思考のきっかけにもなっているはずだ。そう考えると、「聞こえ」が私たちに与える影響は、どれほどのものになるだろうか。 例えば今、自分の「聞こえ」が悪くなったとイメージしてみよう。 すると、人に話しかけられてもわからないケースが増えるかもしれないし、聞き返す回数も増えるかもしれない。そしてそういうことが重なると、相手に「悪い」と思うようになるだろうし、笑ってごまかしたり、知ったかぶりをすることが増えるかもしれない。すると、様々な信用を失ってくかもしれないし、自分から外に出ていくことが億劫になっていくかもしれない。そしてゆくゆくは、認知機能をキープする上で大事だとされる「コミュニケーション」も「運動」もしなくなっていくかもしれないし、自分自身の感情や思考も薄らいでいくかもしれない。「耳からの情報」は、私たちが思っていた以上にとても大きなものだったのだ。