<社会インフラを行く!>南欧風の瀟洒な建物群「ベルコリーヌ南大沢」
赤茶けた傾斜屋根を持つ瀟洒な建物群に一歩踏み入ると、そこは中世の街並みと見紛おうばかりの原風景に向かい合うことになる。数多くの中層建物と点在する多角形の高層タワー棟などが街区ごとに重なり合い、異形の都市空間を形作る。蛇行した街区内の通路(ミニペデ)は、周辺の大歩道(スーパーペデ)とも併せ、住民には馴染んだ生活圏であるが、余所者には迷宮と化す。
都心の西方25-40kmに建設された多摩ニュータウンは、我が国最大級の住宅インフラであり、自然環境と整合する都市施設でもある。ニュータウン黎明期から発展してきた多摩ニュータウンが、「新しい住文化の創造と提案」(当時の住宅・都市整備公団資料より)の一つとして、ここベルコリーヌ南大沢(Belle-Colline:フランス語で「美しい丘」)は誕生し、平成初期から分譲・賃貸された(現時点で54棟1,304戸と聞いている)。 当時の日経アーキテクチュア(1990年4-16号)によれば、マスター・アーキテクトの監修の元、7つの街区毎のブロック・アーキテクトおよびランドスケープデザインにより、ここベルコリーヌ南大沢は設計された、と説明している。南欧山岳都市をイメージしたという丘陵都市は多くの話題を呼び、分譲900余戸には競争率 数10倍を勝ち抜いた幸運家族が続々住みついた。 しかし、入居後間もなく発覚した瑕疵問題で大騒ぎとなり、メディアに再度登場することになる。その後は、街区ごとに、紆余曲折を経て、建替えまたは補修・補強がなされ、生まれ変わりつつあると聞いていた。そして、本年6月に、ベルコリーヌ南大沢の玄関口(南大沢駅からの徒歩圏)とも言うべき5-6住宅の全面建替え工事が竣工し、ほぼ全街区が新装一新されたことになる。 当初の分譲後20余年の長い長い年月を経て、2014年の今夏に、南欧山岳都市ベルコリーヌの街並みが再生する。著名な建築家による斬新なアイディアとコンセプトが、今度は住民の生活と活力で具現化することを願いたい。 (執筆・監修:吉川弘道・東京都市大学教授)