サメやコウモリなどの「怖い生きもの」にももっと保護を、若い研究者たちが「推し活」
「ライオンライト」でライオンと家畜を守る
ケニアで暮らすマサイ族の少年として、リチャード・トゥレレ氏がサイ、ライオン、チータなどから家畜を守る大人たちの手伝いを始めたのは9歳の時だった。トゥレレ氏の父を含め多くの住民は、殺したり傷つけたりして肉食獣を追い払っていた。 しかしトゥレレ氏は、数が減りIUCNが危急種に指定するライオン(Panthera leo)を傷つけたくなかった。そこで灯油ランプからかかしに至るまで、さまざまな物でライオンをおびえさせようとしたが、ライオンはそれらが無害であることにすぐ気づいてしまう。唯一効果があったのは、夜間懐中電灯を持ってする定期的なパトロールぐらいだった。 それがヒントとなり、トゥレレ氏は家庭で使われなくなった家電製品を分解し、LED電球を車の方向指示器につなぎ、最初のライオンライトを作った。最新のライオンライトは、太陽光発電でスマートフォンサイズのライトパネルがランダムに点滅する仕組みになっている。ライトが点灯するパターンがいつも変わるため、ライオンは人がいると勘違いし、近寄らない。 「いつも電線を持って歩き回っている私を、最初は誰もが変わった子どもだと見ていたようです。でも今は、ライオンライトが家畜を守るのに有効だと、皆が認めています」とトゥレレ氏は言う。 2020年にナショナル ジオグラフィックのヤング・エクスプローラーに選ばれたトゥレレ氏は、近頃アフリカン・リーダーシップ大学を卒業した。現在は仲間を集め、チームでライオンライトと動物保護の重要性を啓発する活動をケニア内外で行っている。 「活動が地元だけでなく、アフリカ全土に広がっていくことに驚いています」とトゥレレ氏は言う。
コウモリを使って害虫駆除、どんな農薬も及ばない
カロル・シエラ・ドゥラン氏がコウモリに関心を抱いたのは、コロンビアの高校の食堂でポスターを目にしたのがきっかけだった。「17歳だった私は、コウモリがどんな顔をしているか、それまで知らなかったことに気付いたのです」 ドゥラン氏は当初、コウモリについて何も知らないのは自分だけだと思っていた。しかしその後、科学者であってもコウモリについて基本的な知識を持っている人は少ないと知り、コウモリに夢中になる。 「コウモリを研究していると自己紹介すると、不思議な顔をされます。世の中にはたくさんの動物がいるというのに、よりよってなぜ風変りな夜行性の動物を選んだのだと言わんばかりにね」と、ドゥラン氏は語る。「でもコウモリについて説明すると、その表情は一変します。面白いですよ」 コウモリは大量の昆虫を食べる。そのことを伝えると農家が関心を抱くことにドゥラン氏は気づいた。コウモリを使えば自然に任せた害虫駆除ができ、しかもその効果は最も高価な農薬も及ばないとドゥラン氏は説明したのだ。 メキシコ国立自治大学での修士論文と、ナショナル ジオグラフィックのプロジェクトのために、ドゥラン氏はピーターサシオコウモリ(Balantiopteryx plicata)などメキシコの水田に飛来するコウモリを調査するとともに、コウモリがいることで生態系から得られる恵み(生態系サービス)の経済価値を算出した。 現在、博士課程に在籍中のドゥラン氏は、コウモリの健康を促進する農業のあり方を研究中だ。
文=National Geographic/訳=三好由美子