山﨑賢人が胸を熱くさせる! 実写版『ゴールデンカムイ』で見事に立ち上げた杉元像
新しい年になって早くも3週間というところ。この2024年もまた、山﨑賢人が私たちの胸を熱くさせることになった。そう、彼が主演を務めた映画『ゴールデンカムイ』がついに封切られたのである。新たな旅をはじめた山﨑は、これからどこへ向かおうとしているのだろうか。 【写真】『ゴールデンカムイ』睨みをきかせる土方歳三(舘ひろし) 本作で山﨑が演じているのは、主人公・杉元佐一。“鬼神”のような戦いぶりで日露戦争を生き抜き、「不死身の杉元」という異名を付けられた元軍人だ。ある目的を果たすために北海道で砂金採りに明け暮れていたところ、彼はアイヌの莫大な埋蔵金の存在を知り、広大な雪国を駆け巡ることに。アシリパ(山田杏奈)という名のアイヌの少女と出会った杉元は彼女と手を組み、埋蔵金を狙うほかの者たちと厳しい自然の中での戦いを繰り広げていくのだ。 山﨑が杉元役を務めるとの第一報が出たときには「おっ!」と思ったものだが、世間の反応は違った。『ゴールデンカムイ』は多くの熱狂的なファンを持つ作品。このタイトルの看板を山﨑が背負うことに、「またか!」という反応も多く見られたのだ。 山﨑といえばこれまでに、数々のマンガ作品の実写化において主役級のポジションを担ってきた。『L♡DK』(2014年)、『orange -オレンジ-』(2015年)、『四月は君の嘘』(2016年)と、年に1本以上はマンガを原作とした作品の“顔”となり、2017年には『一週間フレンズ。』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』『斉木楠雄のΨ難』と、マンガを原作とした映画が3作も公開された。極めつけは2019年よりはじまった超大作『キングダム』シリーズでの主演。2020年から配信がはじまった『今際の国のアリス』(Netflix)も人気作としてシリーズ化している。 これらは広く知られている事実だが、あえて列挙してみた。すべての作品に共通していえるのは、マンガ作品を原作としていること。これだけだ。各作品のジャンルも、山﨑が演じるキャラクターのタイプも、その一つひとつはまったく違う。二次元のマンガの世界から飛び出してきたような彼特有の佇まいが、キャラクターのイメージにぴったりハマった。というのが、『L♡DK』の頃の印象だ。 しかしこれも数を重ねると、俳優としての大きな糧(=武器)になる。私たちの生きる現実からすると、マンガの世界は非常にフィクショナルだ。当然ながら演じる俳優には、このフィクショナルな物語に適した振る舞いが求められる。セリフの発し方だってそうだ。ここまでマンガ作品原作の作品を積み重ねてきた山﨑が『ゴールデンカムイ』で主演するのはたしかに「またか!」だが、私の反応としては「おっ(間違いない)!」なのであり、「またか(当然だろう)!」なのである。 実際にフタを開けてみれば、山﨑は予想以上に素晴らしい杉元像を立ち上げている。戦闘シーンにおける彼の凄みのある表情と叫びには、何度も身体が強張った。『キングダム』シリーズで培ったものは大きいのだろう。つねに全力というわけではなく、技術なのかセンスなのか、出力すべき瞬間の力加減を細かくコントロールしているように感じる。アクションにしたってそうだ。本作の戦闘シーンは、『キングダム』ほど現実離れしていない。俊敏だがどこか泥くさい山﨑の身体の扱いが、「不死身の杉元」を生々しく生み出している。必殺技などはないが、それでも目を奪われるのは、山﨑の一挙手一投足が杉元の“生への執着”を体現しているからだろう。必死な人間というのは、美しいものなのだ。 そしてもう一点、山﨑が立ち上げた杉元像の美点を挙げておきたい。原作の『ゴールデンカムイ』はつねにシリアスな作品というわけではない。シーンによってはギャグ要素もある。これをどれくらい実写化では取り入れるのかが気になっていた。実際、それなりに取り入れられている。だが、山﨑は積極的に笑いを取りに行くような大袈裟なことはせず、ただ各シーンの中での要請に従ってサラリと表現しているのみ。笑えるシーンというよりは、ほっこりとなるシーンとして成立している。演出に拠るところも大きいのだろうが、山﨑の控えめなギャグ表現によって作品はさらなるリアリティを獲得し、シリアスなシーンと対置されることで緩急を生み出しているのだ。 ここにまた、俳優・山﨑賢人の新たな旅がはじまった。長く険しいものになるのだろうが、彼が歩みを止めないかぎり、私たちの胸の熱さは消えない。
折田侑駿