「五輪大国」ノルウェー、小学生は全国大会やランク付け禁止 でもメダル量産のわけ
2021年東京五輪では8個のメダルのうち、4個が陸上男子の400メートル障害などの金メダルだった。冬季五輪では圧倒的だ。2022年北京大会の金16個を含む計37個のメダル数は、参加した国・地域の中で最も多かった。 「文化」として根付くノルディックをはじめ、スキーの強さが際立つ。人口555万人(2023年)と、日本の20分の1にも満たないなかでは「スポーツ強国」と呼ぶにふさわしい。 ルードの一家とは家族付き合いだというスナロヤテニスクラブのもう一人のコーチ、トーマス・ピーターソンさん(59)は「カスパーの父親は4大大会でベスト16に進み、五輪にも出た。でも、息子にテニスを押しつけたりはしなかった。あくまでカスパーが自発的な向上心で日々努力するのを、私たちは温かく見守っていた」。 サッカーのハーランドにしても、幼いころはクロスカントリースキー、ハンドボール、陸上にも親しんでいたという。 午後4時。中学生のレッスンが始まると、本気度が増した。 ピーターソンさんは「14歳ぐらいになれば、自分が進みたい方向が明確になってくる」。一度、言葉を切り、ここは強調しておくと前置きして言った。 「カスパーやハーランドのようなスーパースターが生まれたのは偶然のようなもの。大成するのは、ほんの一握りで、運も必要だけどね」 オスロから北へ、電車で1時間ほどの街、ハーマルも訪ねた。 ここには女子ハンドボールの強豪クラブ、ストーハーマルがある。ノルウェー女子は2008年北京五輪以降、4大会連続で金メダル二つを含むメダルを獲得した。 14歳以下のチームの練習を見学していたら、レジェンドがいた。 ハイディ・シュッグムさん(50)は1992年バルセロナで銀メダル、2000年シドニーは銅メダルを獲得し、名選手として鳴らした。今はノルウェー五輪委員会の地域担当で、ユース年代の育成に携わる。 世界レベルで競ってきた経験から、12歳まではランク付けせず、全国大会を開かないノルウェーの政策をどう思うのか。 「国民にスポーツを好きになってもらうという点では機能している。人口は約550万で子どもたちの数も限られているから」。出生率は1.40(2023年)で少子化も進む。そんななか、12歳同士の試合には得点掲示板もなく、全員が平等に出場機会が与えられる配慮を好意的にとらえた。
理学療法士の資格も持つシュッグムさんのような元一流選手が、引退後に地元クラブで指導者になるケースも多い。的確なコーチングを受ければ、上達も、それだけ促される。 「子どもたちは、うまくなれば楽しいと思うし、楽しければ、さらに続けようと思う。その好循環が理想だ」 効用は、子どもだけではないという。 「子どものときにスポーツの楽しさを知れば、大人になっても体を動かす習慣は続く可能性が高い」。国民の健康維持、医療費の削減にもつながる点で、国家としても有益という考え方だ。 そう力説するシュッグムさんのかたわらで、ここでも、練習中の子どもたちから笑顔があふれていた。
朝日新聞社