團十郎襲名後初、5年ぶりの13役早替わり 7月歌舞伎座公演「星合世十三團 成田千本桜」
市川團十郎(46)が、このほどインタビューに応じた。7月の東京・歌舞伎座公演では「星合世十三團 成田千本桜」(1~24日)に登場。5年ぶりとなる13役早替わりの大仕事挑戦には、ある理由があった。(有野 博幸) 「星合世―」は古典歌舞伎3大名作の一つ「義経千本桜」のドラマ性に焦点を当て、源平時代に生きた者たちの運命と業(ごう)を描く物語。13代目にちなみ、大役の知盛、権太、狐忠信など13役を早替わりで演じる。 5年ぶりの上演には雪辱の思いがある。2019年初演では急性咽頭(いんとう)炎で4日間休演。歌舞伎では通常、休演しても代役を立てて続行するが、全13役をこなす代役を見つけるのは困難で、異例の公演中止となった。無念の思いを残しただけに「ひときわ思い入れが強い作品」。 碇(いかり)綱を体に巻き付けて海に飛び込む知盛、初音の鼓を手に宙乗りを披露する狐忠信など名場面が次々に出てくるが、伝えたいのは人間ドラマだという。「登場人物たちは親兄弟であっても、命を狙うことがある。そんな時代背景の中でも源九郎狐は親を思い、その純粋さが胸を打つ。人間の世界と対比した動物の真っすぐさにも共感してもらえたら」。今作は團十郎となって初めての上演となる。 大名跡襲名から1年8か月。改めて「8歳くらいから将来、團十郎になることを想定して『器に負けることがあってはいけない』と自分に言い聞かせていた」と振り返った上で、「團十郎になったことで、視線が変わった気がする」と変化を語る。 「初代團十郎は神格化された部分があったけど、祖父(11代目)や父(12代目)は本当に苦労していた」。先人たちが懸命に生きて築き、大きな名前を守ってきた。「市川團十郎家として、やるべきことは伝統と改革。変えてはいけない部分に細心の注意を払いながら、変えるべきことを改革していきたい」。ずっと抱えていた5年前の苦い記憶。そのリベンジを果たすため、静かに闘志を燃やしている。
報知新聞社