南ア・人種差別アパルトヘイト時代の黒人居住区タウンシップで出会った笑顔
成田から香港経由でヨハネスブルグ、O.R.タンボ国際空港に着いた。国内線のケープタウン行きに乗り継ぐ合間、ふと空港内のトイレに入った。海外では珍しくピカピカに清掃されたトイレに少し驚いた。「ようこそ、私の美しいオフィスへ」とモップがけをしていた若い黒人男性が手を止め、海外からの旅行者に笑顔を振り撒いていた。 最近、日本からの観光客数を伸ばしている。長かったアパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史を克服し、さらに貧困格差、治安の問題を克服すべく動き出した南アフリカ。政府も今、観光産業に力を注いでいる。 雄大な自然、そこに生きる野生動物を目当てに、“一生に一度は訪れたい”と言う旅行者も多い。多くの民族と言語、文化から成り立ってきたことから“虹の国”と呼ばれている南アフリカ共和国を旅した。
ケープタウンの郊外を走っているとトタンの家々が建ち並ぶエリアが目に入ってくる。タウンシップと呼ばれるアパルトヘイト時代、人種ごとに隔離されていた居住区で、おもに黒人専用の居住区域をいう。 アパルトヘイト撤廃後は区域外に住むことも自由だが、なかなか職に就けなかったり、以前からの仲間意識からその場所に住み続けている人も多いという。南アフリカには“ウブントゥ(ubuntu)”という精神があるという。「他者への思いやり」「皆があっての私」という分かち合いの心だそうだ。同じ区域内でも区画により家電のある立派な一軒家もあり、その格差に少し驚いてしまう。
アパルトヘイトという酷い歴史を世界の人々に理解してもらおうと、このタウンシップの中を現地のガイドが案内してくれるツアーがある。 職を得るために工芸品や陶器の製作のトレーニングを行なっている文化施設、わずか6畳ほどの部屋に3世帯が住むホステル型の共同住宅、サンゴマと呼ばれる伝統医療の祈祷師など。 アパルトヘイト政策撤廃後もまだまだ問題は多いようだ。だが親しみをもって笑顔を返してくれるこの町の人たちに会って、僅かずつかもしれないが変化の兆しがみえた。(つづく) (2017年11月撮影・文:倉谷清文) ※この記事はTHE PAGEの写真家・倉谷清文さんの「フォト・ジャーナル<大自然と人 “虹の国”南アフリカへ>倉谷清文第9回」の一部を抜粋しました。