29人死傷のバス横転、「フェード現象」が原因…運転手が「ブレーキでいつでも止まれる誤認識」
2022年に発生した静岡県小山町バス横転事故で、国の事業用自動車事故調査委員会(事故調)は15日、下り坂でフットブレーキを多用したことで制動力を失う「フェード現象」が直接的な原因だとする調査報告書を公表した。運転手(28)が「自己流の危険な運転」を行ったとしたほか、運行会社や営業所の運行管理者による指導が行われていなかったことも事故の一因と指摘した。 【写真】横転し激しく壊れた観光バス
運行会社の指導不足も一因
報告書によると、運転手は21年7月に入社。貸し切りバスの運転を担当してから経験した山岳道路はいずれも勾配が緩く、つづら折りの下り坂になっている事故現場は「過去に経験のない急カーブと急勾配が連続した道路」だったという。バスは時速約93キロまで加速し、カーブを曲がりきれずにのり面に衝突し横転した。
事故調は、運転手がフェード現象について「人ごとでフットブレーキを踏めばいつでも止まれるという誤認識があった」と指摘。「乗客に乗り心地が良いと思ってもらうためフットブレーキによる減速を選択した」と強調した。
事故当日、運転手に示された運行指示書には、一般的な注意のみ記載され運行経路の注意点について記載はなかった。別営業所が同じ現場を走行した際の運行指示書には、「急坂&カーブが続くため、走行時は2速もしくはローギヤの低速ギヤにて」などと記載されていたこともあった。
初めての道路に不安を感じた運転手は出発前、運行管理者に道路の情報を求めていたが、運行管理者は上り坂の注意点のみ伝えていた。報告書は、道路環境の違いや危険性を的確に指示できていなかったとし、「運転技術や知識の向上を図ろうとする職場環境作りに欠けていたことが事故の背景にあった」と指摘した。
再発防止には、経験の浅い運転手に対し、運行管理者が事前に経路を調べて道路状況や運転要領など必要な情報を詳細に指示し、経験や技量に応じた注意事項や指示を記載した運行指示書を作成することなどを求めた。