【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第14回「ストレス解消法」その3
超人的な食欲のおかげで、パワーは全開
令和2年春、新型コロナウイルスの襲来に、大相撲界も、まさにモロ被り。 恐れていた感染者が出てしまい、夏場所の延期ばかりか、外出、出稽古、申し合い、ぶつかり稽古に至るまで控える事態になってしまいました。 まさに八方塞がり、ストレスはつのる一方です。 こんなとき、どうやって鬱憤を晴らせばいいか。 年に6回も本場所があり、プレッシャーには慣れている力士たちのことですから、ストレス発散ならお手のものです。 過去にもこうやって息抜きしていました。そんなストレス晴らしの妙手をピックアップしましょう。 ※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。 【夏場所を振り返って】 鶴竜、初の連覇でV5 栃ノ心、13勝挙げ大関昇進 食欲がなくても…… 力士と言えば、大食漢ぞろい。腹は満ちれば、ストレスも消える。大好きな食べることで鬱憤を晴らす力士も多い。 平成30(2018)年夏場所、東関脇栃ノ心は大関取りという勝負の場所を迎えていた。精神的なプレッシャーも大変なものだった。栃ノ心は、これをどうやって吹き飛ばしたか。毎場所、場所前になると、栃ノ心は牛肉、鶏肉、羊肉などの大好きな肉を大きなブロックで買い込む。それらを自ら台所に立ってクッキングし、食って、食って、食い倒したのだ。なにしろマイ包丁だけで5本も持っている、という料理自慢なのだから。 たとえば5日目。「今日は暑かったから食欲がない」と言いながら、故郷のジョージア料理を作って腹いっぱい食べ、締めは納豆丼。この納豆丼がまた、すごい。まずご飯の上に生卵の黄身だけを乗せ、その上から市販の5パック分の納豆、刻みネギをたっぷり盛り、さらに生卵の黄身を追加する。よくこれだけ丼ぶりに載せられるなと思うが、これを一気にかき込んだのだ。 3日後の8日目も強烈だった。夕食に出前で握り寿司3人前とイクラ丼を取り、ペロリ。午後10時に2度目のディナーで、作り置きのジョージア料理と、卵5個と、納豆3パックを使った特製の卵焼きを作り、パンと一緒にたいらげた。次の日の朝、稽古場に降りてきて、 「今日はちょっと体が重い」 とつぶやいたそうだが、当たり前だ。 ただ、この超人的な食欲のおかげで、パワーは全開。栃ノ心は、初日から12連勝するなど、13勝2敗であっさり大関の座を勝ち取ってしまった。やっぱり食うヤツには敵わない。 月刊『相撲』令和2年5月号掲載
相撲編集部