「県庁所在地への一方的なライバル意識」「空港はあるけれど新幹線は北をリニアは南を」ぶっちゃけた松本市立博物館の展示 職員が込めた本当の思いは
昨年秋にオープンした松本市立博物館の常設展示室内にある休憩スペース「探求の井戸」。八角形になっているベンチの中央に井戸のような穴があり、透明な板に「100年続く長野市への一方的なライバル意識」「松本のすずめ」など刺激的な言葉が記されている。その文言について市民などから、さまざまな声が博物館に寄せられている。企画した市職員に聞くと松本への熱い思いが込められていた。(高橋紀渚) 【写真】「新幹線は北をリニアは南を」
「これから」を考えてほしい 批判覚悟であえて過激に
「探求の井戸」は三つあり、それぞれ違う文言が記されている。「長野県ではなく信州です100年続く長野市への一方的なライバル意識と松本プライド」「論多くしてまとまらない様子から『松本のすずめ』と言われる松本人おっしゃる通りです」「空港はあるけれど新幹線は北をリニアは南を通り過ぎていきますどうなる松本どうする松本」 企画したのは昨年3月まで5年間、市の基幹博物館建設担当の一員として同館の構想を練った市教育政策課の千賀康孝さん(40)。同館は自然や文化などの保護・活用に加え、人々が集い、学び、出会い交流し、未来を創造することも理念に掲げる。 探求の井戸もその延長線上にある。千賀さんは、一方的な説明に終始せず「松本のこれから」を考えてもらえる場所を目指したという。松本市街地に井戸が多いことから、休憩スペースは「井戸端会議のようなことができる空間」を思い描き、「深めるとか、奥から思いが湧いてくるというイメージ」を井戸に重ね合わせた。 来館者から文言について「松本のプライドを大事にしていきたいと思った」など好意的な感想が寄せられた一方、「長野市との分断をあおるのはどうか」など批判的な声が寄せられている。では、なぜ賛否両論が起きそうな、あの文言を考えたのか。千賀さんは「一番の狙いは問いかけること。見た人の心に引っかかり、印象に残るような問いかけにしたかった」と意図を語る。
「うちの所もそうだよ」顔で話し合う人たちも
すべての井戸に共通するテーマは「松本の人」と「これからを考える」。名古屋市生まれで結婚を機に2011年に池田町に移住し、同年から松本市職員になった千賀さん。働く中で「人々の気概や思いが、文化的で活気ある松本の個性を生んでいる」と感じてきた。先人たちが「松本こそ中心」との思いでまちづくりをしてきたからこそ、今日のにぎやかな松本になったはず―とも思う。そんな思いを「松本プライド」に込めた。 「論多くしてまとまらない『松本のすずめ』」との言葉に共感する一方で、「好きなことを言えるのは、民主主義のレベルが高い」という側面があることを知ってほしかったという。「新幹線は北を リニアは南を」との文言には、1997年に北陸新幹線長野―東京間が開業するまでは、県内で東京まで一番近かった松本が、飯田市を通るリニア中央新幹線の開業も控え、東京から一番遠い場所になるかもしれない。「そんな将来に思いを巡らしてほしい」との提起が含まれている。 改めて探求の井戸を訪れると、じっとのぞき込んだり笑顔で話し合ったりする人たちを見かけた。飯田市から夫婦で訪れた桜井善実さん(75)と良子(りょうこ)さん(75)は、「松本のすずめ」の文言に「飯田もそうだよ」「それぞれが意見を言えるって良いことだね」。滋賀県から松本市に帰省中に訪れた松田晃余(てるよ)さん(43)は「いいとこついてる。帰ってきた感じがした。会話になるしいいな」と話した。 千賀さんは「井戸の投げかけをどう感じてもらえるか。『ああだ、こうだ』と話し始めてほしい」と期待する。市民も観光客も「松本のことをどう思うか」「自分のまちの誇りは何だろう」と常設展示を振り返りながら話を深めてほしいとも願う。「本当は自分が井戸端会議に混ざりたいんです」。