「SDGs全てに貢献できる唯一の産業」観光が21世紀のグローバルフォースと言われる理由
<女性の社会進出にも観光が一役>
進行補佐・JICA広報部・伊藤綱貴さん(以下、伊藤) 世良さんは2023年だけで6カ国に旅行したとのことですが、旅先ではどんなことをされますか? 世良 まず、その土地特有のご飯を食べます。現地で有名なアクティビティも体験しますね。 浦野 JICAはヨルダンのサルトという古都で現地の人の家を訪れ、一緒に料理をしたり、ローカルな食事を食べられたりする体験プログラムを行っているんですよ。 浦野 ヨルダンといえばペトラ遺跡が有名ですが、ヨルダン政府からはヨルダンには他にも魅力があり、古都サルトの「歴史的な街並みを観光客が散策するようにしてほしい」という提案がありました。ただ、散策するだけでは経済的な利益は生まれませんから、体験型商品をどう戦略的に町にちりばめるかを考えます。イスラム圏の女性は外で働くことが難しいのですが、観光客向けに料理体験を提供すれば女性に収入が入ります。お父さんが稼ぎ頭で、お母さんは子どもの靴下を買いたいけれど、お父さんが反対して買えないといった時、観光客を相手に自ら開く料理教室で得た収入で子どもの靴下を買えます。観光開発が女性の社会進出を後押ししているのです。 世良 私たちが観光することが、現地の女性の社会進出につながるのですね。
浦野 UNWTOは「観光はSDGsの17のすべてのゴールに貢献できる唯一の産業」だと言っています。サルトのこの事例では、女性が収益を得られるようにしたことで「SDG目標5:ジェンダー平等を実現しよう」に貢献できました。現在、JICAはUNWTOと共に、観光プロジェクトにとっての辞書のような「ツールキット」を作っています。例えば「女性の社会進出」ならば、ツールキットのSDGs5の項目にさまざまな事例が載っているため、参考にしたり、指標を立てられたりします。これは日本の観光開発でも使えるものです。 世良 これから観光の未来は、どう変わっていくんでしょうか。 西山 これから観光は特別なものでなく、途上国、先進国に関係なく、世界中の人が当たり前に旅をするようになるでしょう。あらゆる産業の人が観光を通じて自分たちの産業を発展させていくという、観光が広がりを持つ時代になっていくと思います。 浦野 観光産業はますます重要な産業になると思います。JICAとしては地球規模で途上国への観光開発支援をしながら、その知見が日本の観光開発にも生かせるように活動していきたいと思います。 世良 途上国、先進国に関係なく、お互いの知見を共有していくことが大切ですね。「バランスの取れた観光開発」が大事だということにも納得しました。これからは私も有名な観光地だけではなく、まだ知られていない場所を探して行ってみたくなりました。