世界が熱狂する、日本発のベストセラー「人新世の『資本論』」。若き経済思想家・斎藤幸平が「SDGsは“大衆のアヘン”だ!」と考える理由
「情熱大陸」や「news23」出演などで話題を呼ぶ経済思想家・斎藤幸平。彼の「人新世の『資本論』の売れ行きが止まらない。現代の環境危機への処方箋をマルクスの新解釈から導く硬派な本だが、ついに50万部を突破。ドイツをはじめ世界各国でも大ヒットしている同書の序文を一部編集してお届けする。 【画像】ソ連崩壊以降、見向きもされなかったカール・マルクスだが…
SDGsは「大衆のアヘン」である!
温暖化対策として、あなたは、なにかしているだろうか。レジ袋削減のために、エコバッグを買った? ペットボトル入り飲料を買わないようにマイボトルを持ち歩いている? 車をハイブリッドカーにした? はっきり言おう。その善意だけなら無意味に終わる。それどころか、その善意は有害でさえある。 なぜだろうか。温暖化対策をしていると思い込むことで、真に必要とされているもっと大胆なアクションを起こさなくなってしまうからだ。良心の呵責から逃れ、現実の危機から目を背けることを許す「免罪符」として機能する消費行動は、資本の側が環境配慮を装って私たちを欺くグリーン・ウォッシュにいとも簡単に取り込まれてしまう。 では、国連が掲げ、各国政府も大企業も推進する「SDGs(持続可能な開発目標)」なら地球全体の環境を変えていくことができるだろうか。いや、それもやはりうまくいかない。 政府や企業がSDGsの行動指針をいくつかなぞったところで、気候変動は止められないのだ。SDGsはアリバイ作りのようなものであり、目下の危機から目を背けさせる効果しかない。 かつて、マルクスは、資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩を和らげる「宗教」を「大衆のアヘン」だと批判した。SDGsはまさに現代版「大衆のアヘン」である。
「人新世」に進む地球沸騰化
アヘンに逃げ込むことなく、直視しなくてはならない現実は、私たち人間が地球のあり方を取り返しのつかないほど大きく変えてしまっているということだ。 人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世」(Anthropocene)と名付けた。人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味である。 実際、ビル、工場、道路、農地、ダムなどが地表を埋めつくし、海洋にはマイクロ・プラスチックが大量に浮遊している。人工物が地球を大きく変えているのだ。とりわけそのなかでも、人類の活動によって飛躍的に増大しているのが、大気中の二酸化炭素である。 ご存じのとおり、二酸化炭素は温室効果ガスのひとつだ。温室効果ガスが地表から放射された熱を吸収し、大気は暖まっていく。その温室効果のおかげで、地球は、人間が暮らしていける気温に保たれてきた。 ところが、産業革命以降、人間は石炭や石油などの化石燃料を大量に使用し、膨大な二酸化炭素を排出するようになった。産業革命以前には280ppmであった大気中の二酸化炭素濃度が、ついに2016年には、南極でも400ppmを超えてしまった。これは400万年ぶりのことだという。そして、その値は、今この瞬間も増え続けている。 400万年前の「鮮新世」の平均気温は現在よりも2~3℃高く、南極やグリーンランドの氷床は融解しており、海面は最低でも6m高かったという。なかには10~20mほど高かったとする研究もある。 「人新世」の気候変動も、当時と同じような状況に地球環境を近づけていくのだろうか。人類が築いてきた文明が、存続の危機に直面しているのは間違いない。