<古畑任三郎>殺した人間が生きていた…小堺一機が平静を装う犯人を演じた第10話
三谷幸喜脚本の「古畑任三郎」シリーズは、田村正和演じる主人公・古畑任三郎が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの難解なトリックを卓越した推理力で解いていく、ミステリードラマの金字塔。FOD・TVerでは「#ドラ活 浸れ、超自分的ドラマ生活。」を開催中で、第1シリーズの「警部補・古畑任三郎」第1~3話は7月6日(土)まで無料公開されている。小堺一機が議員秘書の犯人役を演じた第10話を紹介する。(以下、ネタバレが含まれます) 【写真】「古畑任三郎 第3シリーズ」(左から)石井正則、田村正和、西村まさ彦 ■殺したはずの議員が一命をとり止めて焦る秘書 第10話「矛盾だらけの死体」は、宇野代議士(森山周一郎)の秘書・佐小水茂雄(小堺一機)が宇野の愛人・マリ(泉本のり子)を殺してしまう回。 マリのマンションで別れ話がこじれ、部屋を飛び出そうとしたマリを止めようと佐小水が押し倒したはずみに、マリが気を失ってしまった。佐小水はマリをベッドに運び、睡眠薬の錠剤を一粒ずつ根気よく飲ませていく。宇野はそれを平然と見つめていた。その後、佐小水は後処理をめぐってカッとなり、置物で宇野をなぐりつけて昏倒させる。そして、佐小水は部屋を抜け出した。 マンションで古畑(田村)が現場検証をしていると、そこへ佐小水が戻って来る。佐小水は、マリから自殺すると電話があり、あわてて駆けつけたように装う。だが古畑は、現場の状況と佐小水の証言に矛盾を感じていた。宇野が警察病院に収容され、一命をとり止めたと知ってあわてる佐小水。だが、宇野は当時の記憶を失っていた。同じ病院に入院していた部下の今泉(西村まさ彦)を使って、佐小水に揺さぶりをかける古畑。しかし、佐小水もしぶとく犯行をごまかす。 ■気弱で隠ぺい気質な秘書の末路 ずっと尽くしてきたワガママな人間に、とどめの一発を刺されたらカッとなって殺意が芽生える。こんな気持ちを分かるときもあるのが人間の恐ろしいところ。 今回の犯人・佐小水はまさに一瞬の殺意で人生が狂ってしまったようなタイプの本来真面目な男で、古畑が彼の発言の矛盾を追い込んでいく様子は気の毒にさえ見えた。宇野という議員は、公私共に佐小水を頼り切って甘えて暮らしていたことが分かる。愛人の殺害後も佐小水に責任を押し付けただけでなく、「ピザとっていいか?」「コーヒー飲みたいな」などと人が目の前で死んだ直後とは思えないワガママぶりで、佐小水が不満を募らせていたのも無理はない。 どこまでも他人の尻拭いをさせられる人生を歩む佐小水。この話は、頭を殴られた宇野が実は死んでいなかった、と分かる場面から面白さに拍車がかかる。手術は成功した、と聞いた佐小水が恐る恐る病室をのぞくと、今朝、痔の手術をしたばかりの今泉が寝ていたり、意識は戻ったが事件当時の記憶が抜け落ちていると聞いたときに思わずご機嫌になってしまったり、佐小水の焦る感情が刻一刻と変化していくのが滑稽だ。 ベッドに横たわる宇野から「いろいろすまなかったな、迷惑をかけた。おまえほど有能な秘書はおらん」と聞いた佐小水。感謝の言葉なんて聞いたことがなかっただろう男が、さらに犯罪を犯そうと追い込まれていく流れは痛ましさを感じた。「顔色が悪いですよ大丈夫ですか」と畳みかける古畑の底意地の悪さは視聴者の笑いを誘うだろう。