朝ドラ『おむすび』を見て、痛感した…『虎に翼』の深みと「花江の存在」の重要さ
『虎に翼』の深み
家庭内における女性の振る舞いについては、圧倒的に花江ちゃんが優位にあった。 このあと弁護士となり、寅子の夫も、兄も(つまり花江ちゃんの夫)、また寅子の父も戦争のため(戦後すぐというのもふくめ)死んでしまう。 一家を支えるのは寅子の稼ぎにかかってくる。寅子の子も、花江の子もひとつ家に住み、やがて寅子が「亭主」のように振る舞うようになる。 「寅ちゃんは何も見てない、何もわかってない……」 72話で、花江さんは嘆くように言う。 二人の関係は変わっていない。 家庭内では、ずっと絶対的に花江さんが正しかった。 社会的に偉くなり、立派な人物となったヒロイン寅子であったが、でも「本当は正しいのは花江さんの道」ということが何度か暗示されていた。 このへんがこのドラマの深みである。 花江さんの道は、じつは、最初はあまり仲の良くなかった姑(寅子の実母)のはる(石田ゆり子)と同じ道であった。 寅ちゃんが進む道も立派だけど、家庭をないがしろにしてはいけないという花江さんの提言は、やがて、まわりまわって法律家の寅子にも戻ってくる。寅子はそこから「愛の家庭裁判所」に生きていく。 振り返って見れば、無駄のない、ダレ場のない朝ドラとしての名作であったとおもう。 いいドラマだった。 ただ、あなたはこのヒロインが好きだったかと聞かれると、いや、好きではない、と答えるしかない。それはしかたない。
堀井 憲一郎(コラムニスト)