デビュー39年目の南野陽子「老化も隠すことなく」 18歳から大切にしてきた“プロとしての誇り”
黒柳徹子から学んだ「思ったことは出し惜しみをしない」
やっぱり、ベストテンは黒柳徹子さんという生放送を知り尽くした方が最後まで司会をされたことで、歌手のみなさんが成長する姿を視聴者も楽しめたのかなと思います。あれだけたくさんの方が毎週出演しているのに、徹子さんは私と最初にお話をしたことを覚えていて、出演するたびに距離が縮まっていく感じがしました。ステージ後方に飾られたお花の陰には、徹子さんの手書きのメモがたくさん隠されていました。CM中はメモをチェックしながら、出演者に「今度のお衣装、良いわね」って言葉を掛けたり、後ろのソファーに座っている人を見たら、「こっちに来た方が映るわよ」と言ってくださったりで、常に気配りを忘れない方なんです。私も思ったことは出し惜しみをしないで、ちゃんと相手に伝える大切さを徹子さんから学びました。 13枚目のシングル『秋からも、そばにいて』では、途中で歌詞を忘れてしまうアクシデントがありました。あの時は「はい、終了!」と心の中で聞こえてきました。でも、他の出演回がちゃんとしていたかというと、そんなことは全くないですね。声も裏返ったり、思わず、「あっ」と言っちゃったりで。ファンのみなさんも、私がダメなことをよく知っているから、一緒にテレビの前でハラハラしていたと思います。今回、映像作品にそんな場面も「収録していいですか」と聞かれたので、私は「はい。大丈夫です」とお返事しました。その出来事を覚えている人も多いのに、それが入っていないのはダメですよ。 昔から自分はアイドルということを意識はしていなかったです。歌手と思ったこともなくて、今でも歌は好きなんだけど苦手なんです。ファンのみなさんには申し訳ないけれど、ライブで歌う時は緊張しちゃうから、「お客さんはキャベツだ」と思って歌っています(笑)。もちろん、若くしてデビューしたので「アイドル」というカテゴリーに入れられるのは、理解していました。でも、「アイドルだからフリフリの衣装やミニスカートを着なくちゃいけない」という考えは全然なかったです。だから、「18歳の普通の女の子っていうのを忘れちゃいけない。背伸びをしないで等身大の私をちゃんと見せていかなくちゃ」って、必要以上に意識していたかもしれません。 そして、当時は「そこまで突っ張らなくてもよかったのに」って思うくらい、お仕事場でも話し合いをしていました。私って相手との違いを認めることはできても、自分の信念を曲げてしまうことにものすごく拒絶反応を示しました。例えば、グラビア撮影で「アイドルは言うこと聞くのが当たり前」という風潮がとても悲しくて。水着姿でテーブルの上に寝るように言われると、「水着は海やプールで着るものです」と言って撮影を中断するくらい、スタッフさんとケンカになりました。でも、お仕事は絶対に投げ出しちゃいけないので、「代わりにこのワンピースを着てここに立つのはどうですか」と言って、いざという時に使える私服をいつも着ていきました。 他には夜なのに『おはようございます』はおかしいので、頑なに「こんばんは」で通しましたし(笑)。ラジオ番組でもみなさんに“ナンノ”と呼ばれるのはうれしいんですけど、「ナンノはね」とか、自分で自分のことをナンノと呼ぶのが嫌でディレクターさんに反発していました。何となく分かったフリをするのが嫌いだったので、芸能界1年生なら1年生らしく、「ちゃんと疑問と向き合おう」って思っていました。 確かに大人からしたら気の強い、生意気だと思われる娘だったのかもしれません。私もそこまで意地を張らなければ、もっといろんなお仕事に挑戦できたと思います。結局、どの道を選んだとしても自分が信じた道ならば、それが正解なんです。何度も大きくて硬い壁に自分から思い切りぶつかっては、「ガシャーン」って音が聞こえるくらい心も体もぐしゃぐしゃになりました。だけど、おかげで今も私らしくやれているし、「生きていればそれなりの面白さはあるんじゃないかな」って、今はそう思っています。 私って歌もお芝居も全然プロじゃないという自覚があります。でも、18歳の時に私はちゃんとリアルな「18歳の南野陽子」だったことが、プロとしての誇りでした。それはどの年齢でも一緒で、ちゃんと等身大で感じたことを今も大切に生きています。今月23日に57歳になります。これからも老化も隠すことなく(笑)。「57歳というプロ」としてやっていきますよ! 来年は40周年なので、「何かやりたいな」と思っています。ただし、ライブをやるにしてもお客さんに来てもらわないと実現できないので、決まったら全国のファンのみなさん、ちゃんと全員集まってくださいね(笑)。 その前に7月に東京、大阪、横浜で夏のライブ『南野陽子 To Love Again III ~GAUCHE』を開催します。『To Love Again』は映画『愛情物語』のテーマ曲で、人生で最もよく聴いた大好きな曲です。そんな誰もが一度は聴いたことがあるポピュラーソングと私の曲で構成したライブになります。良かったら遊びにいらしてください。 □南野陽子(みなみの・ようこ) 1967年6月23日、兵庫県生まれ。85年6月23日、シングル『恥ずかしすぎて』でデビュー。同年11月、フジテレビ系連続ドラマ『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』で主人公の2代目麻宮サキを好演してブレーク。87年、映画『スケバン刑事』主題歌『楽園のDoor』で初のオリコンチャート第1位。同年にリリースしたCDの総売り上げは、国内年間シングルセールスで1位。同年、映画『はいからさんが通る』で主演し、袴姿の衣装が注目された。以降、卒業式や成人式で袴を履くスタイルが定着。2023年、日カンボジア友好70周年親善大使に任命。愛称は「ナンノ」。
福嶋剛