『ブギウギ』料理描写の変遷を振り返る “おかずの品目”は社会の写し鏡に
残すところあと2週となり、佳境を迎えている『ブギウギ』(NHK総合)。大正から昭和までの時代の変遷や香川・大阪・東京とさまざま場所を経て、本作ではさまざまな料理が登場し作品を彩ってきた。本稿では『ブギウギ』に華を添えてきた料理描写を振り返ってみたい。 【写真】愛子の誕生日パーティーにはショートケーキが並んでいる これまで朝ドラでは料理をテーマにした作品が多く制作されてきた。最近で言うと、沖縄出身の四兄妹の次女・暢子(黒島結菜)が料理人を目指し、東京で沖縄料理の店を開くため奮闘する姿を描いた『ちむどんどん』が思い浮かぶ。同作では沖縄の代表的な料理であるゴーヤーチャンプルーやマース煮など沖縄ならではの料理が登場した。また、NHK大阪放送局の朝ドラでは関西伝統の料理が登場することも多く、『ほんまもん』では数々の京の精進料理が紹介された。 料理は時代背景や家族構成、土地柄など、さまざまな要素が絡まりあいながらその時代を反映してきた。通称“消えもの”と言われる料理もまた細かな気配りとアイデアから生まれたものであり、特に朝ドラの料理描写は作品に欠かせないものとなっている。ことNHK大阪放送局の朝ドラに関しては、2013年の『ごちそうさん』以降、関西の食を中心にごちそうプロデューサーとして活動する料理研究家の広里貴子が料理指導を担当している。 『ブギウギ』が始まった時代は1926年、つまり大正15年。いわゆる「大正ロマン」と言われる時代であり、当時は和と洋が入り混じったより現代に近しい時代だったと言える。そして二度の世界大戦が起きる前ということもあり、平和的なムードが形成されつつあった時代感の影響で、登場する料理もどこか豪華な印象もある。 たとえば、ツヤ(水川あさみ)の家庭では定番のイワシ料理を始め、「若竹煮」「厚揚げとフキの炊いたん」といった季節感溢れる料理も登場。そして現代のスタイルとは異なり、花田家の4人が丸テーブルを囲みながら食事をしているシーンが多く見られた。ご飯、みそ汁、冷奴、漬物、おかずという日本の伝統的なスタイルで、おかずに関しては家族全員で小皿に取り合っているのがとてもいい。 そして成長したスズ子(趣里)が第4週「ワテ、香川行くで」で訪れたのがツヤの実家である香川県。ここではスズ子の大好物のちらし寿司を始め、白壁の治郎丸宅の法事の際には「湯だめうどん」が登場した。昭和初期の香川では法事のお膳にうどんを提供することが多かったようで、『ブギウギ』でもそうした背景が取り入れられている。さらに同シーンでは香川の郷土料理である小エビが入ったえびみそ汁も丁寧に再現。広里はインタビューの中で時代背景だけではなく、登場人物の性格も踏まえて料理をイメージしていることを明かしており、この料理描写だけでも大西トシ(三林京子)ら親戚一同がスズ子たちを歓迎していることが伝わってくる(※)。 続いて舞台は東京へ。梅丸少女歌劇団(USK)に入団したスズ子が、東京の梅丸楽劇団から視察にやって来た演出家の松永(新納慎也)に誘われ、秋山(伊原六花)と共に上京する。ここでは新たに下宿屋の主人・チズ(ふせえり)が登場し、チズの夫・吾郎(隈本晃俊)と共に食卓を囲むシーンがたびたび描かれてきた。印象的だったのは初稽古で疲れ切ったスズ子と秋山のために、元力士の吾郎がちゃんこ鍋を振る舞ったシーン。野菜とイワシのつみれの入った鍋を豪快につつきながら団欒する姿に、昭和らしい家族の温かみが溢れていたように思う。このシーンは広里が50匹のイワシを捌いて作ったことが明かされており、手間暇をかけて丹念に仕込んでいた愛のある料理だ。そして羽鳥家をスズ子が訪れたシーンではすき焼きが登場。当時は第一次世界大戦が始まり、日本も安泰ではいられない状況の中で、すき焼きが登場する羽鳥家の裕福な家庭事情が垣間見える。 だが、戦況が悪化していく中で食生活にも変化が現れる。一汁一菜の食事からたまご入り雑炊だけの食事になり、「福来スズ子とその楽団」で巡業に行った際にはスズ子と愛助(水上恒司)、小夜(富田望生)の3人でじゃがいもを食べる描写も描かれた。作中ではおいしくなさそうに食べていた野草ご飯はヨモギのほかにもキクナとツルムラサキを混ぜて作られたそうで、実際に趣里、水上、富田もおいしく食べたそう。だが、強調しておきたいのは、当時は雑炊やじゃがいもですらも豪華な食事であったということ。じゃがいもを3人で頬張る姿からは当たり前の食事ができる現代のありがたみをひしひしと感じた。 戦後はだんだんと食料も豊富になっていき、品数も増えていった。梅吉の危篤を知り香川へと戻ったスズ子と愛子(小野美音)。ここでは香川名物のカンカン寿司が登場し、食事にも戦後からの回復の兆候を感じられた。カンカン寿司とはすし箱にすし飯を詰めた後に、その上にサワラを並べて蓋をして木枠をくさびで打ち込んで作られる。その音がカンカンと聞こえることから名前がついた香川県では江戸時代から伝わる郷土料理。香川に生きる人々の生活が食事からリアルに伝わってくる。 大正から昭和中期までのスズ子の半生を描いた『ブギウギ』。そこに登場する食事はその時代の社会の写し鏡であると同時に、現在との対比にもなっているのが興味深い。残りわずかとなってしまったが、改めて食事風景にも注目してみてはいかがだろうか。 ■参照 ※ https://realsound.jp/movie/2020/01/post-477101.html
川崎龍也