初任給を18万5000円に上げて週休2日を実現…”若者が足りない建設業”が直面している現実
発注者に事業者が選ばれる時代から、事業者が案件を選ぶ時代に
人手不足が深刻化することで、各社が競って働き方の見直しを進め、報酬水準を引き上げる状況に変わった要因として、担当者は建設業界全体の構造変化をあげる。 「今は人手不足で受注を取りたくても取れないという会社が増えています。利益を見込めそうな工事は15社とかいきますが、そうでない案件は1社入札とかもあります。たとえば橋梁の補修工事などは利益が出にくく、入札不調の工事がどんどん増えてきました。最近は発注者から取ってくれという電話がかかってくることもよくあります。建設会社が十分な人材を獲得できない中、事業者が案件を選ぶ時代に変わってきているのです。 時代をさかのぼると、リーマンショック後、民主党政権になったころは公共事業が大きく減り、安い案件を企業が取り合っていた時代がありました。昔はどの会社も人手が十分にあって、なりふりかまわず案件を取りに行っていました。その時代からすると今の状況は考えられないことです。建設業界全体の局面が変わってきたのは、おそらく平成25~27年(2013~2015年)頃が境目だったと思います。そのくらいの時期から急速に人手不足感が強まってきて、現在もなおその流れが続いています」 政府や地方自治体の公共事業関係費は1990年代後半から2010年代の初めころまで減少傾向にあったが、近年ではやや回復している。今後の建設投資の需給はどのように推移していくだろうか。 人口の長期的な減少が確実視されるなか、道路や橋梁などインフラの新規投資の需要は減少していくと見込まれる。一方で、日本の社会資本ストックは高度経済成長期に集中的に整備され、今後急速に老朽化することが懸念されている。 そうなると、既存インフラの維持・修繕のための需要は引き続き底堅く推移していく可能性が高いだろう。生産年齢人口が急速に減少してサービスの供給主体の人口も減っていくなかで、経済の需要の減少と供給能力の低下はどちらが速いスピードで進むのか。 「今後、人口減少が進んでいくので、工事の数自体も減っていくと思います。ただ、工事数の減少よりも、建設業の成り手の不足の方が間違いなくスピードが速いです。実際に、地域に暮らす若者の数がすごいスピードで減っていますから。 今の時代は幸いなことに工事の数が多いので、工事を受注できなくて経営が危機に陥ることはなくなっています。ただ、他社の話では人手が不足しているせいでこれまで3つの工事を組めたのが一つしか組めなくなっているというような話も聞こえ始めています。いくら案件がたくさんあっても、仕事を請けられなければ売上が立ちません。賃金水準が上昇する中で、利益水準が下がっている会社もあるようです。 これからの時代、工事が受注できなくて倒産する企業はないでしょう。しかし、人手が確保できずに倒産するということはありうると思います。現在はまだ同業者が倒産したみたいな話は出ていないのですが、今後は間違いなく人手不足倒産が多発すると踏んでいます」 つづく「日給9000円、高齢者が多い「警備会社の実態」…生き残る企業と廃業する企業の「決定的な差」」では、若い従業員が激減した警備業において、豊富な人手が過当競争とサービス価格低下を引き起こした実態などを見ていく。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)