モラハラ夫の変貌で逆転する善悪? 美羽(松本若菜)の“不倫”を目撃した親友は…… 『わたしの宝物』4話
モラハラ夫の変貌から見えるものは
1話の宏樹と比べると、3話から4話にかけての宏樹はまさに別人のようだ。 自宅にある書類を美羽に会社まで持ってこさせたり、妻の服装にまで嫌味を言ったりしていたモラハラ夫が、子どもが生まれるや否や美羽の体調を気遣い、「今日は早く帰ろう」と提案したり、ハーブティーを淹(い)れたり、産後うつについて調べたり、慣れない料理の作り置きをしたり、自らベビーシッターを買って出たりと、その変貌(へんぼう)ぶりがすさまじい。 これまでの物語を俯瞰(ふかん)してみる。1話で徹底的に宏樹のモラハラっぷりを際立たせ、子どもが産まれた途端に優しくなるギャップを見せることで、本来の宏樹は美羽に対する思いやりを持ち合わせていることを表現している。 宏樹はもともとモラハラ気質を持っているのではなく、職場環境のストレスが原因で、精神が不安定になっていた。そのことを示すのに、1話から4話にかけての構成が上手く機能している。そのおかげで、美羽が募らせる罪悪感との対比もより強くなっている。 美羽と宏樹の立ち位置を、「善」と「悪」に当てはめるとしたら、それが見事に入れ替わってしまったとも言える。 美羽は、生まれた子どもが宏樹の実子ではないことを未だ誰にも打ち明けられていない。その真実を宏樹と冬月の双方が知ったとき、一番に悪者になってしまうのは美羽なのではないか。美羽が、かつて大切にしていた“宝物”であろう冬月を前に、いつまでも逡巡(しゅんじゅん)し続けているのも、いずれ糾弾される自身の孤独を予感しているからかもしれない。
トライアングルに影響する二人の女性
冬月との子どもを「あなたの子よ」と宏樹に偽っている美羽。このトライアングル関係に、それぞれ別の方向から影響を与える二人の女性がいる。冬月が経営するフェアトレードの会社の同僚・水木莉紗(さとうほなみ)、そして、美羽や宏樹と面識のある真琴だ。 莉紗は冬月に好意を寄せており、彼が海外でテロに巻き込まれたときもそばにいた。だが莉紗に冬月はまったく思いが至っておらず、再会した幼なじみ・美羽のことしか見えていない。そんな冬月にじれったさを感じつつも、面と向かって、夢の実現に向けて「私ひとりじゃ無理。冬月が必要なんだよ」と伝える芯の強さもある莉紗は、じゅうぶんに視聴者の応援を勝ち取れる存在だろう。 そして、真琴が特別な存在に感じている相手は宏樹のようだ。彼女自身は「推し」と呼称しているが、会社への出勤中に外でつらそうに休んでいる宏樹を心配する目線には、れっきとした恋愛感情が含まれているように思える。 真琴が、給水塔の下で抱き合う美羽と冬月を目撃してしまったことで、次回から物語が様変わりしそうだ。美羽と冬月、当人同士の見解とは別のところで、はたから見れば彼らがやっていることは不倫である。倫理に反する行いだと非難されてもおかしくはないだろう。真琴は宏樹を思いやるがあまり、美羽を攻撃する側にまわるだろう。 莉紗はどう出るだろうか? 冬月の人間性を「人と人とのつながりを大切にする、それが冬月の考え方なんです」と宏樹の前でプレゼンする彼女も、彼の味方になるのが自然だ。 美羽の孤独は、より深く、暗くなっていくだろう。そこに光を当ててくれるのは宏樹か、冬月か? 大人たちの複雑な人間関係なんてどこ吹く風で、きらめいた眼で世界を見やる栞の存在だけが、この物語の唯一の癒やしだ。
『わたしの宝物』 フジ系木曜22時~ 出演:松本若菜、田中圭、深澤辰哉、さとうほなみ、恒松祐里、多岐川裕美、北村一輝ほか 脚本:市川貴幸 主題歌:野田愛実『明日』 プロデュース:三竿玲子 演出:三橋利行(FILM)、楢木野礼、林徹
文:北村 有