嵐橘三郎『夏祭浪花鑑』婿をこれでもかといじめ倒す舅・義平次【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
毎月歌舞伎座公演で上演される演目のなかから、気になる場面やせりふ、キャラクター、衣装などをピックアップ。客席からは知る事のできないあれこれを、実際に演じる役者に直撃質問! これを読めばきっと生の舞台を体感したくなるはず。 さぁ、めくるめく歌舞伎の世界へようこそ。(「ぴあ」アプリ&WEB「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より転載) 【全ての写真】嵐橘三郎さん最新舞台写真ほか 浪花の侠客らしく義理人情に厚い、いや厚過ぎるほどの婿・団七九郎兵衛に対して、金の亡者で強欲な舅の三河屋義平次。おそらく前世でも、生まれ変わっても、絶対に折り合うことのない者同士だ。義太夫狂言『夏祭浪花鑑』に登場するこのふたりの男の間でずっとくすぶっていたのは、「嫁と姑」、ではなくて「婿と舅」問題。じっとりと粘っこく暑い大坂の夏のある日、ついに事件に発展してしまう。 <あらすじ> 団七九郎兵衛は大恩人の息子である玉島磯之丞とその恋人琴浦の難を救うため、釣船三婦や義兄弟の一寸徳兵衛、そして彼らの女房たちと奔走している。だが金に目がくらんだ義平次が琴浦を悪人の手に渡そうとして……。 先月は惚れた男をとことんいじめる『伊勢音頭恋寝刃』の仲居万野を深ボリしたが、今月は金が欲しくて婿をいびり倒す舅。いじめた相手に惨殺されるのも共通する。だが万野が意外にあっさりと殺されてしまうのとは異なり、団七と義平次はたっぷりと殺しの場面を繰り広げる。歌舞伎の数ある狂言の中でも、凄惨なのに錦絵のようにあでやかな殺しの場として知られるのが「長町裏の場」だ。 団七は髪をさばき肌脱ぎになり、夜目にも鮮やかな全身の刺青と真っ赤な締め込み(褌)を晒す。その印象とは対照的に、泥だらけになりながら団七と共に美しい殺し場を造形していく義平次。 今月の「四月大歌舞伎」で義平次を勤めているのが嵐橘三郎さんだ。義平次を勤めるのは今回で7度目。あの卑しく嫌われ者のキャラクターの裏にはどんな工夫があるのか。初日が開いて間もないところを直撃、たっぷりとお話をうかがった。