<春風を待つ―センバツ・宇治山田商>支える人々 校歌歌う光景見せて 08年春 甲子園初勝利の主将、北川直峰さん /三重
2008年のセンバツで宇治山田商は甲子園で初勝利した。当時の主将で、現在はJR東海・伊勢運輸区の運転士として地元の足を支える北川直峰さん(33)は、16年ぶりに挑む後輩に「甲子園で校歌はまだ僕たちしか歌っていない。その光景をまた見せてほしい」と願う。【原諒馬】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち ◇変わらぬ全員野球、自ら重ね 「山商の全員野球、変わっていないな」。昨年10月、秋季東海大会準決勝の豊川(愛知)戦を岐阜市の長良川球場のスタンドで観戦し、高校時代の自分たちの姿を重ねた。北川さんが束ねた08年春のチームにも圧倒的な強打者はいなかったが粘り強く戦い、センバツ切符を手にした。そのスタイルが現チームに似ている気がして「きっと選ばれると信じていた」と出場を喜ぶ。 宇治山田商はこれまでに春1回、夏3回、甲子園に出場した。北川さんは2年生だった07年夏と08年春に二塁手として出場。07年は、その夏の優勝校・佐賀北(佐賀)と初戦で引き分け、再試合は1―9で敗退した。延長十五回までもつれた熱戦は、「緊張もあり、一打が出なかった」と振り返る。 リベンジを誓い戻ってきたセンバツは、主将として仲間に「まずは1勝しよう」と呼びかけた。初戦(2回戦)で安房(千葉)に初回先頭打者本塁打を浴び、試合は相手ペースで進んだが2点を追う九回、1死二、三塁から同点に持ち込んだ。 そこで北川さんに打席が回った。初球を振り抜くと、打球は左翼手のグラブに入ったかに見えた。「また延長か」と思ったというが芝生にこぼれ、劇的なサヨナラ打に。ベンチを振り返ると、仲間が駆け寄って来た。4度目の甲子園で、初めて聖地に校歌を響かせた。 3回戦は、強豪の智弁和歌山に延長十一回で惜敗した。卒業後はJR東海に入社。センバツのチームで捕手だった木田恵太さんは運転士、投手だった広出裕希さんは車掌として、今は同僚だ。 北川さんの運転する列車は、宇治山田商の最寄りのJR参宮線・五十鈴ケ丘駅にも停車する。母校の野球部員を今も近くに感じられ、やりがいがあるという。「緊張から失策も出ると思うが、気にしないで。楽しんでほしい」。後輩を運転席から見守っている。=随時掲載 〔三重版〕