「最後の舞台は○○にする」『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督が語る、シリーズ理想の結末とは?
映画史に輝く大ヒットシリーズの完全新作『猿の惑星/キングダム』が公開中だ。進化した猿たちが人類を支配する未来が舞台の本作は、家族の復讐を誓った若き猿ノア(オーウェン・ティーグ)が人間の女性ノヴァ(フレイヤ・アーラン)と共に、冷酷な独裁者に挑む姿が描かれる。本作を監督したのは、実写版「ゼルダの伝説」に抜擢され注目を浴びる俊英ウェス・ボール。オリジナルシリーズの要素を受け継ぎながら、新たな世界を構築した監督に作品に込めた想いやリアルな視覚効果のポイント、そして今後のシリーズへの展望を聞いた。 【写真を見る】「この映像『猿の惑星』まんまじゃないか!」ボール監督も撮影しながら驚いたシーンとは? ※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。 ■「68年版に思いを馳せる、そんなムードを持たせたいという想いで臨みました」 ディストピアSF「メイズ・ランナー」トリロジーで監督デビューを飾ったボール監督。本作への参加が決まった時は、喜びや驚きでいっぱいだったという。「ずっとこのシリーズを観てきたし、愛もあります。自分がその歴史の一部になれること、しかもシリーズ10作目というタイミングで関われて光栄です」と語ったボール監督。一方自身初となるビックタイトルだけに気負いも感じたようだ。「この作品は『メイズ・ランナー』3作を足したより多くの予算が投入されているんです。まるでマイナーリーグからメジャーに移ったような感覚で、製作環境を含めあらゆることの規模がけた違い。プレッシャーを感じたのも事実です」と笑う。 憧れの「猿の惑星」への参加にあたり、どんな作品を目指したか?という質問に「ノスタルジアではないけれど」と前置きをして伝説の原点である『猿の惑星』(68)の名を挙げた。「僕はこの作品を繰り返し観て育ったので、68年版に思いを馳せる、そんなムードを持たせたいという想いで臨みました。見た目でキャラクターを区別できる猿たちのデザインや、彼らが暮らす未来世界をどうするかなど、リスペクトだけでなくオリジナリティある作品にしたいという気持ちもありました」。 監督デビューする前は、VFXアーティストとして視覚効果の世界で活躍していたボール監督。本作の視覚効果も、どこまでなら可能かぎりぎりのチャレンジの連続だったと振り返る。「とくにチャレンジングだったのは、岩山のワシの巣から卵を持ち帰る冒頭のアクション。ここは実写を使わず100%すべてCGで描いています。実は本作への参加が決まって最初に頭に思い描いたのがこのシーンだったんです。映画で最初の見せ場ですから、細かいところまでリアルな仕上がりにこだわりました」。ほかにもフルデジタルのシーンは30~35分あるという。「観客の皆さんに没入してもらうため、すべてのシーンでリアリティを大切にしました」。 ■「オーウェンは来てくれてありがとう!と思わず手を合わせたくらいすばらしかった」 主人公ノアを演じたのがオーウェン・ティーグ。世界的に大ヒットした「IT/イット」ニ部作で不良少年の1人を演じ印象を残したティーグは、思いがけない冒険に巻き込まれ成長していく若きチンパンジーを演じている。その演技について、ボール監督は「グレイトのひと言だった」と称える。「演技がすばらしいのはもちろん、謙虚でつねに最高の演技を心掛けてくれました。そもそもノアは、リブート版で圧倒的な演技を見せたアンディ・サーキスのシーザーを継ぐキャラクターです。それだけでも勇気がいるのに、主役としてほぼ出ずっぱり。重圧は大きかったと思いますが、まだ20代という若さに似合わず最高の仕事をしてくれました」と絶賛。実は最初のビデオオーディションの時、1番目に見たのがティーグの動画だった。その時の印象は「来てくれてありがとう!と思わず手を合わせたくらいすばらしかった」と教えてくれた。 ティーグたち俳優陣の演技は、パフォーマンス・キャプチャによってそのままCGキャラクターに反映された。情感あふれる演技、特に繊細な目の動きに引き込まれそうになる。「撮影は普通の映画を撮るのと同じで、アングルを決めて照明を当て演技を撮ります。しぐさはもちろん、例えば眉や瞳をどう動かすのかもすべて俳優を参考に動きをつけていくのです。涙袋の形やぱっと見ではわからない左右の目の大きさの違いまでCGモデルに落とし込み、動きや照明による影の変化など、細かいデティールまでノアに生かしました。視覚効果はリブート3部作を手がけたWETAデジタルで、1000人を超えるVFXアーティストがこの作品のイリュージョンを生みだしてくれました」。 ノアと冒険の旅に出るのが、ミステリアスな人間の女性ノヴァ。人類が野生化したこの時代、彼女は知性を持っておりそれが物語の鍵になる。そんなノヴァを演じたのがドラマ「ウィッチャー」で注目された若手演技派フレイヤ・アーランだ。「ルックスだけでなく複雑さを感じさせるキャラクターの持ち主です。現在22歳ですが、年齢に見合わないしっかりした俳優でした」とボール監督。雰囲気が68年版に登場する人間の女性、ノヴァを演じたリンダ・ハリソンに似ていますねと振ると、そのことも決め手だった明かした。「顔がそっくりといわけでもないですが、リンダと雰囲気がとてもよく似ています。あの時代から来たと言われてもおかしくない、神秘的なところもキャスティング時に重視したんです。期待通りフレイヤは、ストーリーが進むにつれ謎が明かされていくノヴァを魅力的に演じてくれました」。 ■「倒壊した自由の女神でこの物語を締めくくれたら最高ですね」 68年版は馬で海岸を旅していた主人公テイラー(チャールトン・ヘストン)が、倒壊した自由の女神を見てここが未来の地球だと気づくシーンで幕を閉じた。今作の中盤にはノアたちが馬に乗ったゴリラのシルヴァたちに連行されて、砂浜を進むシーンがある。68年版のラストシーンとだぶって見えたが、撮影時に自分も驚いたとボール監督は振り返る。「あのシーンの撮影時に、スタート!と言った次の瞬間、ちょっと待って、この映像『猿の惑星』まんまじゃないか!と気付いたんです(笑)。実はクランクインして最初に撮影したのが、あの砂浜のシーン。その時、自分はいま『猿の惑星』を撮っているんだと改めて自覚しました」。 そんなボール監督に自由の女神を出したかったかと聞くと、答えは「もちろんイエス」だった。「でも今回はカリフォルニアが舞台です。自由の女神を出すには、ノヴァたちを東部まで行かせなければなりません。やっぱり『猿の惑星』を撮るなら、どうやって自由の女神が壊されたのか、その部分は描きたいですね」。 先行して公開された米国では初登場1位と好調なスタートを切った『猿の惑星/キングダム』。今後のシリーズ化について現段階では未定だが、もし続投が決まったらどんな展開にしたいのかと聞いてみた。「この作品は“シーザー三部作”の延長にある、ある意味シーザーの位牌から生まれた作品です。僕が遠くに見ていたのは68年版ですが、このシリーズには語るべき物語がまだたくさんあります。僕としてはただ展開をなぞったり、リメイクしたいと思ってはいないんです。これからシリーズ化されるのか、どんな物語にするのか、すべてはスタジオ上層部の判断ですが、もし続く物語を撮らせてもらえるなら、オーラスの舞台は廃墟のニューヨークにしたいんです。倒壊した自由の女神でこの物語を締めくくれたら最高ですね」。 取材・文/神武団四郎