『最愛』などの劇伴を手がけた横山克が恋愛番組で体験した“新しい曲作り” ABEMA・横山祐果Pと語る
「選ぶのは、愛か? 金か?」ーー真実の愛を見つける“ラブキャッチャー”と、賞金500万円を狙う“マネーキャッチャー”を探す攻防戦が描いた恋愛番組『LOVE CATCHER Japan』。同番組は、韓国の大手総合エンターテインメント企業「CJ ENM」傘下の音楽チャンネル「Mnet」が制作・放送した『ラブキャッチャー』を、ABEMAと吉本興業がタッグを組んで、新たに制作した。 【写真】『LOVE CATCHER Japan』のプロデューサー・横山祐果と劇伴を担当した横山克の撮り下ろしカット 今回は、『LOVE CATCHER Japan』のプロデューサー・横山祐果氏と、劇伴を担当した横山克氏にインタビューを決行。『最愛』(TBS系)や『Nのために』(TBS系)など、数々の人気作の劇伴を作ってきた横山克氏が感じた恋愛番組の面白さ、また横山Pが番組制作をする上でこだわったポイントなどを聞いた。 ・「ダメもとでお願いした」 双方の気持ちが合致したキャスティング ーー『LOVE CATCHER Japan』は、これまでABEMAが作ってきた恋愛番組とは毛色が異なるように感じました。まずは、横山Pからお話を聞かせてください。 横山祐果P(以下、横山P):『オオカミには騙されない』シリーズや『恋愛ドラマな恋がしたい』シリーズなどをプロデュースしてきましたが、『LOVE CATCHER Japan』に関しては、これまでと毛色がちがう作品に……と思い、制作を始めました。ABEMAの恋愛番組と言えば、甘く切ない恋愛模様を描いているものが多かったと思うんです。ただ、今回は“愛かお金か?”というテーマを軸にして、人間の心の奥底にある欲望だとか、葛藤のようなものをしっかり描いていくこと。また、出演者がラブキャッチャーなのかマネーキャッチャーなのかを予想するひとつのエンターテインメントショーにしたいと思っていました。 ーー制作チームなどの座組も、これまでとはガラリと変えて? 横山P:そうですね。そもそもが韓国のフォーマットなので、雰囲気が大きく変わるだろうなというのはあったんですけど、ハイクオリティなものに仕上げたいと思ったときにやっぱり音楽が重要だなという話になりまして。横山(克)さんにお願いさせていただきました。 ーー横山(克)さんにお願いした背景というのは。 横山P:この番組は、恋愛の線と推理の線が存在するので、その2つを中心に考えていきたいと思っていたんですね。そうなったときに、横山さんはこれまで『最愛』(TBS系)や『Nのために』(TBS系)などラブサスペンスの劇伴を手がけていらっしゃる。恋愛の切なさを訴えながら、サスペンスの雰囲気も醸し出せるところが横山さんが作る音楽の魅力だと思っていました。それと、個人的に『最愛』が大好きだったので、横山さんの劇伴も何度も聴かせていただいていて。ダメもとでお願いさせていただいたら……。 ーーOKをいただいた、と。 横山P:ダメだったらやめようと思っていたのですが、意外にとんとん拍子で進んだんです。うまくいくときって、本当にすごいスピードで進んでいくんだなぁと思いました。引き受けていただけて、本当に嬉しかったです。 ーー横山さんは、いろいろな作品の劇伴を担当してこられたわけですが、恋愛番組の劇伴というのは新たな挑戦ですよね。 横山克:私としては、新たな挑戦からこそ新しい刺激が受けられるし、刺激があると新しい自分を発掘できるかもしれない、と思っています。ですから、このお話を伺った時には、「なんとしてもやってみたい!」という想いが強かったです。ドキュメンタリーの音楽を作ったことはありましたが、恋愛番組とはまたちがうじゃないですか。どう音楽をつければいいんだろう? って。 ーー恋愛番組自体はお好きだったのですか? 横山克:『あいのり』(フジテレビ系)は世代だったので、観ていました。あとは、身近な女性スタッフたちが『バチェラー』(Amazon Prime Video)の話で盛り上がっていたので、「そんなに面白いなら観てみよっかな」と思ってたら、ハマっちゃいましたね。あとは『【推しの子】』を読んでいて、恋愛リアリティショーの舞台裏も垣間見れたりもしたので、意外と恋愛番組が身近にあったのかもしれません。 ・「脚本がないものに音楽をつける」という初めての体験 ーー今回、劇伴を作る上で特にこだわったポイントを教えてください。 横山克:スタッフさんたちとのお話のなかで、「ドラマのように見せたい」ということを言われまして。これまでの恋愛番組とは、まったくちがう見せ方をしたいということだったので、演出要素を入れた方がいいのかな? と思ったんですね。つまり、リアリティショーなんだけど、ちょっと演出が入っているように見えるような。そんな作用を音楽で及ぼせられたらいいなと考えました。 ーー横山Pは、どのようなリクエストを出されたのでしょうか? 横山P:「全体的には大人の恋愛で上質に仕上げていただき、恋愛と推理のシーンを行き来して、推理エンタメショーとしての盛り上がりも感じるような感じで仕上げてほしい」とお願いしました。横山さんは、すべての曲に共通するモチーフを入れてくださって。 横山克:まあ、とはいえ、リアリティショーだから、なにが起こるか分からないんですよね(笑)。脚本がないから。脚本がないものに音楽をつけるのって、もしかしたら初めてだったかもしれません。それがすごく新しい経験で、面白かったですね。 ーー結末が分からないまま、曲をつけていくのは難度が高いですよね。 横山克:そうですね。ただ、結局ストーリーが盛り上がるのって、心が動く瞬間というところに戻ったんです。映画でも、状況に対して音楽を作る事はなくもないですが、基本的には誰かの心の中を浮かび上がらせるような音楽の付け方をします。そんな原理に立ち戻ると、恋愛が動くとか、マネーキャッチャーがなにかを仕掛けるとか。音楽をかけるのは、そういう部分だろうなと。 ーー『LOVE CATCHER Japan』は、常に視聴者をハラハラさせるような演出が印象的です。 横山P:本人たちの感情はリアルですけど、揺さぶられるようなルールがいっぱいあるんですよね。そういう後押しがあるからこそ生まれるドラマもあるし、思っていた筋を大幅にそれて違う方向にいくこともある。 横山克:そこに目掛けていく、という形で楽曲を作りました。 横山P:メインテーマも、バージョンが4つもありますもんね。いろいろなところで使えるように、と。番組のことを親身になって考えてくださって、ありがたかったです。 ・心がけたのは“サウンドバーで聴いても劣らない”音作り ーーメインテーマは、弦とピアノを主体としていますが、オーケストラサウンドではなくドラムキットの音も入れているという構成が面白かったです。 横山克:これは、『最愛』のときに気づいたことなのですが、スリリングなものに、ドラムのオルタナティブな感じって実は合うんだな、と。今回は、マネーキャッチャーの“仕掛ける”という点に目をつけたんです。ドラムキットの追い込まれていく感じが、戦いっぽくていいなって。 ーー横山さんの劇伴は、ジャンルや楽器をそれぞれのバックグラウンドに合うものを使用されていることが多いですよね。『LOVE CATCHER Japan』の舞台はマレーシアということで、意識して使われた楽器などはありましたか? 横山克:たしかに、それはなにか使えばよかったな(笑)。今回はないんですけど、たしかにこれまではやってきましたね。そもそも、なんで舞台はマレーシアになったんですか? 横山P:非日常を大切にしたかったんです。南国の陽気な雰囲気のなかで、開放的な気分でゲームに没頭してもらえたらと思って。 ーーたしかに、マネーキャッチャーの人数が発表されるまでは、みなさん浮き足立ってましたもんね。 横山克:マネーキャッチャーの人数が発表されてからの雰囲気の変わりようがすごかったですよね。「やっぱ、いるんだわ……」という感じで。 ーー横山Pは、劇伴がつく前の素材もご覧になられたのですよね。やはり、違いはありましたか? 横山P:もう、全然違いました。わたしは、特に秘密の部屋のところが好きです。秘密の部屋って、いろんなことを一人きりになって考える場所でもあるので、普段とは違う表情が見られるんですね。そこに向かうときの怪しい雰囲気とかが、横山さんの楽曲で彩られていて、グッときました。 ーー秘密の部屋のシーンで流れる楽曲は、どのようなイメージで作られたのでしょうか。 横山克:あれは、後を引く感じにしたかったんです。引き込む感じで、より高貴なものに見えるように。これは音楽の特権だと思うんですけど、錯覚させられるんですよね。催眠術みたいな感じで。その作用が出たらいいなというのを思いながら作りました。 ーー音にこだわった部分もあったのでしょうか。 横山克:この番組はスマホで観る人が多いと思うんですね。ところで最近のテレビって十分高音質だと思っているんです。広いレンジ、しっかり出るじゃないですか。なので、もちろんスマホでも楽しめるけれど、サウンドバーで聴いても劣らない音作りは心がけています。あとは、スマホであればAirPodsとかも多いですよね。それこそ、しっかりいい音だと思いますし、そういった意味での遠慮はなく、広いレンジを使った音楽を作っています。 ・「劇伴がついていることにより、いろんなシーンが記憶に残る」 ーー今回の劇伴は、ドラマティックなことが前提というか、穏やかでフラットな曲がほぼないというのも特殊ですよね。 横山克:映画やドラマでは、なんでもない状態の音楽を作る場合もあるんですよ。そこをベースにしたステップアップがすごく大事なんですけど、この番組に関してはニュートラルをあえて作る必要はないかなと思って。感情のギアだけにフォーカスしました。 ーー劇伴があると、なんだかドラマを観ているような気分になってきます。 横山P:本当に、そう思います。主題歌だけでなく、劇伴がついていることにより、いろんなシーンが記憶に残るなって。またぜひお願いしたいです。 横山克:もともとぼくは脚本至上主義なんです。ドラマや映画の劇伴を作っているときは、常に脚本に立ち戻る……というのを繰り返していたのに、今回はそれがなかったから「なにを頼りに作ればいいんだろう?」と戸惑った部分もありました。でも、仕上がりを見たときにすごくしっくりきたんですよね。こういう作り方も面白いなぁって。恋愛リアリティショーには脚本こそありませんが、ドラマが確かにありますし。 ーー今後、同じような機会があったら、チャレンジしたいことを教えてください。 横山克:それこそ、先ほどお話ししたように、マレーシアの要素を入れるとかは次回のヒントになるかもしれないですよね。ロケ地がどこになるかは分からないけど、やってみようとなるかもしれないし。あとは、やっぱり現場に行くべきだなって。ぼく、映画やドラマのロケの見学に行ったりするんですよ。そうすると、いろいろなヒントを得られる。たとえば、助監督さんが朝日を撮るために午前2時から待機していたのに、使われたカットはたったの3秒だったとか。そういう生の現場に触れると、1つ1つのカットへの想い入れは本当に深くなりますよ。ぼくにとっては、それは全て作曲のヒントなんです。今回、新たなチャレンジをしてみて、これまで本当に色々なメディアに音楽を作って来ましたが、まだまだ経験したことのない世界はあり、この仕事は面白いと思っています。
中村拓海、菜本かな