一人で暮らす老いた親の「ヒートショック」を防ぐ対策法は?【介護の不安は解消できる】
【介護の不安は解消できる】 「昨晩、風呂から上がって体を拭こうとしたら、意識を失って倒れたようです。額にできた傷がひどく痛むのですが……」 そう訪問看護師に訴えたのは、80歳になる女性でした。軽度認知障害と診断されてからも住み慣れた家で過ごしたいと、1人暮らしを続けています。 一段と冷え込むこの時季に、独居の認知症高齢者が気を付けたいのが「ヒートショック」です。これは気温や室温の急激な変化により血圧が乱高下して生じる健康被害で、一般的に10度以上の寒暖差で起こりやすいといわれています。 家の中で最も気を付けたい場所が「浴室」と「脱衣所」です。冷えた脱衣所で衣類を脱ぐと、寒冷刺激によって血管が収縮して血圧が上昇します。その状態で熱々の風呂に入ると、今度は血管が一気に拡張され血圧が低下し、さらに風呂から上がって脱衣所に戻るとなれば、再び血圧が急上昇しやすい。短時間に何度も血圧が上下し血管や心臓に負担がかかり、めまいや立ちくらみのほか、重度では失神、不整脈、心筋梗塞を起こして、最悪のケースでは死に至る恐れがあります。 とりわけ高齢者の多くは血圧を下げる「降圧剤」を常用していて、夕食後に服用してから入浴すれば血圧はさらに降下しやすい。気付かないうちに風呂場で意識を失うと、転倒して溺死する危険があります。 ほかにも油断できないのが「トイレ」です。脱衣所と同じく寒くなりやすいのに加え、排便時にいきむと、血圧は一気に上昇します。ところが排便後は副交感神経が優位になって血圧が低下するため、短時間で血圧が変動して立ちくらみが生じて、ヒートショックを起こしやすいのです。 家族と同居されている方に比べて独居されている方の場合、倒れても発見が遅れて命を落とすリスクが高い。離れて暮らす親のヒートショックを防ぐためにも、帰省時に親と一緒に対策を講じる必要があります。 最も有効なのが、暖房器具の設置です。リビングや居室に比べて、脱衣所やトイレには暖房がないケースが多い印象を受けます。人感センサーが搭載された「セラミックファンヒーター」であれば、自動運転で操作の必要がなく、消し忘れによる火事の心配もありません。非常にコンパクトな製品も販売されており、置き場所にも困らないでしょう。 浴室の暖房も欠かせません。事前にシャワーで暖めたり、浴室暖房が設置されている場合には入浴前に本人が押し忘れないよう、事前に家族が暖房のスイッチに色の付いたシールで目印をしておき、その付近に「入浴する時はスイッチを押す」と書かれた張り紙をしておくのもおすすめです。また、熱めのお湯はヒートショックのリスクを高めるので、事前に家族が給湯温度を41度以下に設定しておくといいでしょう。 現段階で1人暮らしができていたとしても、認知症が進行するとできないことが増えていくものです。本人の承諾を得て、入浴はデイサービスで行ってもらうのも一つの手です。 ▽筋野恵介(すじの・けいすけ)2008年3月埼玉医科大学卒業、10年4月同大学病院感染症・感染制御科入局、11年4月同大学病院ER科兼任入局を経て、18年4月現在の「のぞみクリニック」開設。