暗闇のなかで耳を澄まして、音の世界に入り込む。個展『evala 現われる場 消滅する像』をレポート
「視覚要素を極力までなくして音だけで展開する」
最も広い展示室であるギャラリーAでは、中央に設置された波打ったようないびつな形状の構造体に登り、思い思いの体勢をとりながら鑑賞することができる新作インスタレーション作品、『ebb tide』(2024年)が展示されている。 evala自身の記憶に残る私的な場所の環境音や、さまざまな音具の音によって構成されており、evalaにとって「死を迎えた人々へのレクイエム」でもあり、「生命への畏怖」も込められているという。暗闇のなかで曖昧に浮かぶ光を眺めながら音に身を包まれることで、時の流れを忘れ、神秘的な感覚を味わうことができる。 暗闇のなかで繊細な音響世界を体験できる本展について、evalaは「耳を澄まして、静かに、しばらく佇んでいただきながら体験いただけたら」と語る。 「アートの文脈では、視覚的な造作があるなかで何らかの音が出されているような作品がサウンドアートと呼ばれ、展開されていると思います。要するに、目で見ながら聞くという『目で聞く』体験だとしたら、僕の場合は視覚要素を極力までなくして音だけで展開する作品です」 「例えば、夢は目を使わないで見るものです。目を閉じて見ているものなのに鮮明に覚えていたり、現実に戻ると満足していたりする。それに近いところがあります。イマジネーションのように、目では見えず、耳でしか見えないものをどうやってつくれるかということをずっと思考しています」 「写真も真っ暗で撮れないし、ビデオでも撮れないし、音を録音しても実際とは違うものになってしまう。空気振動だけで体験するような作品をつくり続けて、その集大成となるのが今回の個展です」 日常から離れ、聴くことと見ることが融け合うような新たな感覚をぜひ体験してほしい。会期は2025年3月9日まで。
テキスト by 生田綾