いじめ件数 実態把握に疑問の声 東広島の小中学校 全国・県を大きく下回る 専門家「国の定義、浸透に差」
広島県東広島市教委が公表した小中学校でのいじめの認知件数が、児童生徒千人当たりで比較すると全国や県を大きく下回り、実態を反映できていないのではないかと市議会で疑問の声が上がっている。県内の自治体間でもばらつきがあり、文部科学省によるいじめの定義の浸透具合に差が生じているのが要因と指摘する専門家もいる。行政によるいじめの実態把握の現状と課題を探った。 【グラフ】中学校でのいじめの認知件数 「いじめの認知件数が全国に比べて極端に低い。違和感を覚える」。市教委が報告した2022年度のいじめの認知件数について、2月29日にあった市議会の代表質問で、市議が市教委の見解をただした。疑問の声は昨年12月の文教厚生委員会でも相次いだ。「報告したら都合が悪くなると考え、学校が低く抑えようとしてはいないか」と厳しく問いかける場面もあった。 市教委によると、22年度のいじめの認知件数は小学校82件、中学校57件だった。児童生徒千人当たりでは、小学校は全国が89・1件、県が28・9件だったのに対し、市は7・3件。中学校は全国が34・3件、県が20・4件だったのに対し、市は11・5件。市は小中とも全国や県より極端に少ない。過去5年、同じ傾向だった。 市教委指導課は、各学校でより積極的な把握に努めるよう校長会などで伝えているという。同課は「拾えていない、見えないいじめがどこかにないか。子どもの変化に気付ける教員を育成していきたい」とする。 文科省は、いじめが社会問題になるたびに、定義を広げて対策を講じてきた。1985年度の調査開始当初は「自分より弱い者への一方的、継続的な攻撃」としていたが、13年施行のいじめ防止対策推進法は、被害を受けた子どもが心や体に苦痛を感じるような行為と定める。 いじめ問題に詳しい広島大大学院人間社会科学研究科の栗原慎二教授(学校臨床心理学)は「文科省は重大事案につながる可能性があるケース全てをすくい、その後に精査すべきだという考え方。ただ現場でその考え方に沿った対応ができていない可能性もある」とみる。 加えて「いじめは隠れてやるもので簡単には見つからない」という意識を教員が持っているかどうかによっても差が生じると言う。実態を把握するアンケートで「いじめられた経験があるか」と聞かず「嫌な経験をしたことがあるか」といった尋ね方の工夫で把握できる件数は変わってくるとする。 文科省は暴力行為についても調査しているが、22年度の調査では、東広島市の発生件数は児童生徒千人当たりで全国とほぼ同じで、県の件数は全国を大きく上回っている。栗原教授は「攻撃性はいじめにもつながる。子どもたちが自分をコントロールする力を育む方策を考えることが大切だ」と強調する。
中国新聞社