実は“MCU初”が盛りだくさん?3人のヒーローがチームを組んだ『マーベルズ』をネタバレなしでレビュー
マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の新作『マーベルズ』(公開中)は、まさに期待にたがわぬおもしろさ。なにしろ、マーベル史上最強のヒーローと言っても過言ではないキャプテン・マーベル(ブリー・ラーソン)こと、キャロル・ダンヴァースが2019年の『キャプテン・マーベル』以来、久しぶりに主人公となる。しかも、この最強のヒーローが、ひとりでは戦えない状況に追い込まれてしまうのだから、設定的に興味を引かれるのは必然だ。さらに『マーベルズ』は、MCUの一編としても斬新な作品なのだ。 ■3人のヒーローが入れ替わる謎の現象が発生!? 【写真を見る】かわいすぎる猫エイリアン、グースの仲間たち!彼らの活躍は一見の価値あり 宇宙空間に存在するワープのためのゲート、“ジャンプ・ポイント”の損壊により、キャロルの特殊能力に異常が起こる。彼女のいる位置が、宇宙ステーションの女性エージェントや、ジャージーシテイに住むアベンジャーズオタクの女子高生と頻繁に入れ替わってしまう非常事態。彼女たち3人に共通しているのは“光”を駆使した特殊能力を持っていること。この難局を乗り切るため、キャロルは当事者である彼女たちとチームを組み、巨大な敵に立ち向かっていく…というのが、ざっくりとしたストーリーだ。 まずはキャロルと共闘するほかの2人について解説しておこう。宇宙ステーションの女性エージェント、モニカ・ランボー(テヨナ・パリス)は『キャプテン・マーベル』にすでに登場している。キャロルの親友でクライマックスの決戦にも参加した米空軍パイロット、マリアの娘。同作のころは、まだ小さな女の子だったが、いまや立派な特殊工作員。配信ドラマ「ワンダヴィジョン」では、特殊能力を得るまでの過程が描かれていた。ちなみに、母マリアとは死別しているが、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)の最後で描かれたサノスの“指パッチン”により、5年間消滅していたモニカは、母の死に目に会うことができなかった。そのせいもあり、長年会いに来てくれなかったキャロルに対して複雑な感情を抱いている。 もう一人の重要キャラであるオタク女子高生カマラ・カーン(イマン・ヴェラーニ)は、キャプテン・マーベルを“推し”としているアベンジャーズの大ファン。パキスタン移民の家で、イスラムの厳格な教えにより育てられてきた。空想好きで、マーベルヒーローを題材にした二次創作に夢中になっているが、茶色い肌の女の子がキャプテン・マーベルのようなヒーローになれるわけがないと諦めてもいる。そんな彼女が祖母から送られてきた不思議なバングルを腕に装着したことで、特殊能力を身につけ、ミズ・マーベルとして活躍する。その過程は、ドラマ「ミズ・マーベル」で描かれていた。ちなみに本作はMCUの配信作品のなかでも、抜群の人気を誇っている。 特殊能力があり、正義感も強いのだが、心は少々陰っている、そんな2人もやはり苦悩を抱えているキャロルとチームを結成する、というワケだ。「ワンダヴィジョン」や「ミズ・マーベル」を観ていなくても本作は楽しめるが、観ておけばさらにおもしろくなるので、興味のある方は、ぜひチェックしてほしい。 ■3人のヒーローが入れ替わりながら戦うアクションシークエンスは見もの! さて、今回の新作『マーベルズ』について語っていこう。冒頭で、さっそく今回のヴィラン、ダー・ベン(ゾウイ・アシュトン)が登場。部下と共に異星の地表を採掘する彼女は、強大な力を秘めたバングルを発見する。しかし、彼女の目的遂行のためには、対になっているもう一つのバングルが必要だった。勘の良い方は、それを誰が持っているのか、すでにおわかりだろう。 このあとに続くのがキャロルとモニカ、カマラに生じる異変。3人のうち誰かが特殊能力を発動させる度に、3人の居場所が入れ替わる。異星にいたはずのキャロルはいつの間にかカマラのオタク部屋におり、自室で妄想に耽っていたカマラは宇宙服を着て宇宙空間を漂っている…という具合。自分の身になにが起こっているのかわからなかった3人は、それぞれが置かれた場所で、誰かわからない敵と戦うハメになる。戦っている最中でさえ能力を発動しては入れ替わって、違う敵と戦い、また戻ってきて…を繰り返す。このシークエンスは最初のアクションの見せ場にして、ユーモラスな場面でもある。 そんな彼女たちが対面することで、なにが起きているのかが次第に明らかになってくる。憧れのキャプテン・マーベルと出会えたカマラはすっかり有頂天になって一方的にオタク愛をぶつけてくる。逆にキャロルと久しぶりに再会したモニカは、彼女に放置されてきたと感じており、その悲しみをこじらせて素直に喜べずにいる。3人が互いを理解し合うには、もう少し時間が必要だった。ダー・ベンとの遭遇により発覚する宇宙の危機と、そこから始まるバトル。腹を割って話さなければ、わからなかった、それぞれの境遇。そんな“時間”が緊密な共闘へと発展し、“マーベルズ”結成のドラマをヒートアップさせていく。 『キャプテン・マーベル』に比べてアツいアクションドラマであると同時に、笑いの点も強調されている。とりわけ、カマラの女子高生らしいハシャギっぷりや、厳格な家族をバトルに巻き込んでは謝る姿は思わず吹きだしてしまう。また、『キャプテン・マーベル』に登場した、愛らしい猫の姿をしたエイリアン、グースも再登場。アベンジャーズの司令官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)はコワモテだが、グースと再会するとデレデレになってしまうのだからおもしろい。そのグースも、今回は共闘する仲間が大挙して現われる。これに関しては見てのお楽しみ、というにとどめておきたい。 ■エンドクレジットのオマケ映像に登場するのは誰?今後のMCUへの期待高まる! 『マーベルズ』がMCU内で独特である点も記しておこう。まず、肌の色も信条や信仰も異なる3人の女性が手を組むという設定。ダイバーシティ的共闘は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)のクライマックスの合戦でも描かれていたが、3人という限定人数で、しかも女性同士が、互いを深く理解し合ったうえで戦うのは今回が初めてだ。女性という点では今回はヒーローたちだけでなく、ヴィランのダー・ベンも女性であり、大筋に絡むキャラクターを女性で固めたことも劇場版のMCUでは初。これは現時点で2023年最大の全米興収を計上し、世界興収でもトップに立っているガーリー・ムービーの決定版『バービー』(23)とも歩調が一致する。すなわち、強い女性が時代を切り拓いていく時代にふさわしいエンタテインメントなのだ。 もちろん、MCUの今後の流れを占う点でもファンには見逃せない。対のバングルには、どんな秘密があるのか?ジャンプ・エリアの存在をここまで積極的に描いたMCU作品は珍しく、ひょっとしたらそれが今後の鍵になるのでは?新たなアベンジャーズの結成は、どうなるのか?…など、興味は尽きない。もちろん、MCU作品にはお約束のエンドクレジット時のオマケ映像では、アッと驚くヒーローとの今後の接点を匂わせている。こちらも見てのお楽しみだ。 MCU作品はいまや2時間超えが当たり前となっているが、本作の上映時間はなんと105分。これは劇場用のMCU作品では、最もコンパクトな尺だ。裏を返せば、それだけテンポのよい作品であるということ。監督のニア・ダコスタは『キャンディマン』(21)を手掛けて注目された女性監督で、本作ではユーモアとスリルを巧みに織り交ぜ、目の離せないドラマを演出。歌と踊りで会話をする惑星アラドナで「梨泰院クラス」のパク・ソジュン扮するヤン王子がキャロルと織り成すミュージカル調の会話劇は一見の価値ありだ。また、キャロル役のブリー・ラーソンをはじめ、おなじみの出演者も再結集しているが、新キャストであるダー・ベン役のゾウイ・アシュトンは、MCUではロキ役でおなじみのトム・ヒドルストンと婚約しているという裏ネタもある。時代を的確に捉え、反映して最高のエンタテインメントに昇華した『マーベルズ』。そこには、もうワクワクしかない! 文/相馬学