3冠ガンバは常勝軍団となりえるか
派手なガッツポーズをする選手も、涙腺を決壊させる選手もいない。日本サッカー史に残る快挙を告げる主審のホイッスルが鳴り響いても、ガンバ大阪の選手たちはほとんどアクションを起こさなかった。 驚異的な粘りをみせたモンテディオ山形を振り切った安堵感。長く苦しいシーズンが終わりを告げた解放感。そして、タイトルをすべて獲得した達成感。さまざまな思いが選手たちの脳裏を駆け巡っていたのだろう。キャプテンのMF遠藤保仁は、試合終了直後の心境をこう振り返る。 「三冠を取るっていうのは、非常に難しいものなんだなと」 13日に日産スタジアムで行われた天皇杯決勝。すでにナビスコカップ、J1を制しているガンバが3対1でモンテディオを下して、Jリーグ発足後では2000年シーズンの鹿島アントラーズ以来となる、国内三大タイトルを独占したチームとなった。 午後2時4分に迎えたキックオフでは、ちょっとした「異変」が発生していた。2つのタイトル獲得に貢献した攻撃的MF阿部浩之、右サイドバック・米倉恒貴が先発に名前を連ねていない。9年ぶりとなるJ1優勝を果たした6日の徳島ヴォルティスとの最終節で負傷したためで、後半32分には守備の要、センターバックの岩下敬輔までもが負傷退場を余儀なくされた。 阿部の位置には倉田秋が、右サイドバックにはオ・ジェソクが左から回り、左サイドバックには藤春廣輝が入った。今野泰幸をボランチからセンターバックに下げるプランも考えられたが、長谷川健太監督はリーグ戦で4試合にしか出場していない金正也を岩下の代役に指名した。 競争と守備意識――。就任してから2年という時間をかけて、長谷川監督がチームに植えつけてきたイズムがこの2点に凝縮されている。 競争で言えば、たとえばサイドバックは左右両方ができるオ・ジェソクを軸に、右の米倉、左の藤春が激しく争ってきた。 W杯の中断期間で米倉が特に守備力で成長を見せたこともあり、後半戦は左にオ・ジェソク、右に米倉が固定された。J2を戦った2013年シーズンで、左サイドバックとして全42試合に先発フル出場した藤春は決して腐ることなく、自分に足りない点を探し続けた。 シーズン最後の大一番で先発した、入団4年目の26歳は長谷川監督への感謝の思いを忘れなかった。 「腐っていたらサッカー選手としてすぐに終わってしまうので。ベンチから見ていると、ジェソクや米倉は球際で本当に激しく当たっていたし、勉強になることばかりだった。監督は試合に出られなかった選手に一人ひとり話し掛けてくれた。試合の翌日などに『次があるから頑張れ』とよく言われたし、声をかけられるかどうかで全然違ってくる」 岩下とともにセンターバックを形成した丹羽大輝も、U‐21日本代表に選出された西野貴治が台頭してきた夏場にはリザーブに甘んじている。金とともに練習に打ち込み、西野のけがもあってポジションを奪い返した今シーズンの軌跡を、胸を張りながらこう振り返る。 「限界を決めつけてしまったら、そこまでの人間になってしまうと思いました。成長する、チームに貢献するというイメージを常に抱きながら、日々の練習に取り組むことがすごく大事だと。来年はもっと、もっと上にいきたいという欲が生まれてきました」