フリーアナウンサー・神田愛花『43歳の女が髪をバッサリ切った理由』
3月中旬、髪をバッサリ切った。毛先が肩甲骨(けんこうこつ)にかかるくらいの長さを、首が丸出しになる顎のラインまで。12cmくらいだろうか。襟足の毛はもう2cmしかない。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~46回)はこちら 昔から、髪を切って大きくイメージチェンジをした女性には「失恋したの?」という言葉が投げかけられてきた。今回も心配(私の場合は離婚)してくれた人がいたが、離婚が理由ではない。 ではなぜ切ったのか。衣装に合う髪型を考える時間に辟易(へきえき)としたからだ。 お世話になっているスタイリストさんとは、NHK在籍時からのお付き合い。私の服の趣味を理解し、色味やデザインに海外の雰囲気を取り入れ、上手にスタイリングしてくださる。これまで15年近く、すべてのお仕事の衣装をその方にお願いしてきた。 フジテレビ系『ぽかぽか』が始まる時も当然、その方に依頼した。週5日放送がある『ぽかぽか』だけでも、1ヵ月に20着。それ以外も含めると、多い月で35着ほど用意していただくことになる。 スタイリストさんからは、「数が多くなるから、すべて愛花ちゃんの気に入ったもので用意するのは不可能よ。多少妥協が必要になるけれど、それでもいい?」との条件が提示された。他の方なんて考えられない。彼女を信頼している。なので答えは、「それで構いません!」だった。 だがいざ『ぽかぽか』が始まると″普段着″のような衣装が用意されるようになった。仕方がないことは理解している。だが、近くのスーパーに行く時のような、フツーのAラインのスカートにフツーのウールのセーターとか、ナチュラル素材のダラッとしたワンピースとか。これまでと路線が違う衣装ばかり。43歳のオバサンらしい服装でテレビに映ると……周りの出演者に″華″があるからか、より老けて見える感じがした。母からは「衣装どうしたの?」とメールが届き、親友からは「スタイリストさん変わった?」とLINEが。次第に自信が持てなくなり、カメラの前でニッコリ笑うと(『オバサンが無理してる!』と言われるのでは!?)と思うようになってしまった。 なんとかしなければ。ヘアメイクさんに助けを求め、「衣装が普段着っぽい時は、髪型を工夫してカバーしましょう!」ということに。それから毎朝、髪型会議を真剣におこない、どうにか『ぽかぽか』の快活な雰囲気に合う外見を作り上げた。 しかしある日の朝、我慢の限界がきた。(″髪型を工夫すれば、この服も可愛く見える″なんて考えながら衣装を着るのは、間違っている!! 本人のポテンシャル以上に見えるような服を用意するのが、スタイリストさんの仕事じゃないの!?)。そこで、(アレンジできないほど髪を短くすれば、衣装側が変わるしかなくなる!)と、バッサリ切る決意をした。 ◆スタイリストさんが可哀想! 他のタレントさんのスタイリスト事情も気になった。仕事でご一緒した方に聞くと、目から鱗(うろこ)の情報が。 得意ジャンルが違う複数人のスタイリストさんと関係を築き、番組によって替えるというのだ。主婦層が見る番組は、清潔感のあるスタイリングが得意な方に。バラエティ要素が濃い深夜番組は、奇抜なスタイリングが得意な方に。さらに皆さん口を揃えて、「毎月何十着も一人にお願いするなんて、スタイリストさんが可哀想!」と言うのだった。 深く反省した。私はてっきり、複数の方に依頼すれば、スタイリストさんのプライドを傷つけてしまうと思い込んでいた。長年のよしみで無理難題を受け入れてくださり、一人で頑張ってくれていた。そのことにようやく気がついたのだ。 長年、衣装を通して私のイメージアップに力を貸してくださってきたスタイリストさん。これからもまだまだ力を貸してほしい。そのためには、私が彼女の働く環境を整えなければならない、という考えに至った。 この4月からは、新しく出会ったもう一人のスタイリストさんと二人態勢で、サポートしてもらっている。心なしか彼女の声に、気持ちが楽になったような穏やかさを感じている。ホッとした。 でも念のためだ。もう二度と″髪型を合わせることでなんとか着られる衣装″が用意されないよう、髪をバッサリ切った。それが今の髪型だ。スタイリストさん、これからも宜しくお願い致します。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年4月19日号より 文・イラスト:神田愛花
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