主人公の名前はエレカシの宮本から 池松壮亮の新卒社会人ぶりに感情移入
池松壮亮が文具メーカーの営業マン・宮本浩を演じる『宮本から君へ』(テレビ東京系、金曜24時52分)が面白い。登場人物は普通の人々ばかりだが、ことごとく生き生きとしていて、どっぷり感情移入できるのだ。 90年代前半に『モーニング』(講談社)で連載され、新卒社会人のバイブルともいわれる人気コミックが原作。主題歌はエレファントカシマシの「Easy Go」だが、原作者の新井英樹氏がエレカシファンで、ボーカルの宮本浩次から主人公の名前をとったのだとか。不器用だが熱量が凄く感情むき出しの主人公・宮本を池松が好演、同僚役に柄本時生、恋の相手に華村あすか、さらに物語が後半に入ってくると松山ケンイチと蒼井優が登場するという。
何年も前の自分を見ているよう 大人世代には追体験できるドラマ
社会人になったころ、見るもの触れるものすべてが新鮮で、世界が変わったような気がした。いつも歩いていた最寄り駅への道も、途中で出会う景色の数々も、同じはずなのに、驚くぐらい新鮮に感じられた。恋さえも。ただがむしゃらに、海に飛び込むみたいに、その新しい世界に飛び込んで、溺れないように浮かんで、そしてもがきながら泳ぎを覚えていった。あれはいったい、なんだったのだろう。大人世代には、そんな人生の感触を追体験できるドラマだ。 JR総武線代々木駅のホームで毎朝通勤時に見かけるOLに一目惚れしてしまった宮本(池松)。きょうこそ声をかけようと悶々とする日々が、2カ月も続く。そんなある日、ついに意を決した。彼女の隣に並ぶ。彼女との間は、一人分ほどの距離だ。各駅停車千葉行きの電車が到着する。ドアが開く。彼女が乗りかける。宮本は動かない。動かない代わりに「ちょっと待ってください!」、大声で呼び止めた。振り返る彼女は、もちろん驚いた表情だ。 現実には、声をかけたくてもかけられないことがほとんどだろう。でも、あのころの自分に代わって、ドラマの中では宮本が本当に、声をかけてくれるのだ。そしてなんと振り返った彼女は宮本に応え、通勤時に会話を交わすようになる。その自動車メーカーの受付嬢、甲田美沙子を演じる華村あすかが、またいい。昨年スカウトされ、『週刊プレイボーイ』(集英社)の表紙・巻頭でデビューしたシンデレラガールは、これが演技初体験だ。山形から上京して1年も経っていないこともあり、そこはかとなくぎこちなさがただよう。そのフレッシュさが、かえって魅力的なのだ。 また、2話では宮本と友達以上恋人未満的な、微妙でせつない距離感を演じきった茂垣裕奈役の三浦透子も良かった。子役時代にはなっちゃんの2代目イメージキャラクターに選ばれ、2011年には今作と同じくテレビ東京系のドラマ『鈴木先生』で演技力が高く評価された。以後、活躍の幅を広げてきたが、今回の裕奈役でもまた株を上げただろう。 現在はまだ3話が放送されたところ。物語が後半に進むと、美沙子とは好対照なキャラである中野靖子(蒼井)が登場する。演じる華村と蒼井も、女優としてのキャリアからして好対照というか、対極にある。宮本とのコントラストも、どのように変化していくのか楽しみだ。 柳楽優弥主演の映画『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)で知られる真利子哲也監督が、全話で脚本と演出を手がける。また、写真家・佐内正史氏が映像演出したというオープニングの宮本の泣き笑いも、やるせなさや人としての実在感が伝わってきてセンスがいい。 次も観たい度 ★★★★★ (文・写真:志和浩司)