「ゆくりなく」の意味を知っていますか?
黒木)ボキャブラリーが豊富だと、そういう気持ちになります。でも、知らないと「こんなに知らない語彙があったのだ」と思ってしまう。それを恥ずかしいとは思わず、知った喜びと言うか、いままで知らなかったことが恥ずかしいのではなく、「知ることができて嬉しい」と思える自分がいます。「まだまだだな」と思いながら。 宮崎)言葉は、最初は知らなくて当然ですから、恥ずかしがることはありません。むしろ、自分が使える言葉を増やしていく楽しみを知って欲しいのです。 黒木)この本で学んだ言葉を、「日常のなかで使っていきたいな」と思いました。 宮崎)それは最高です。語彙というのは2つあります。1つは「理解語彙」。本などを読む際に「私はこの言葉を知っており、理解ができる」という語彙で、これが第一段階です。それを会話のなかや手紙などを書くときに、能動的に自分で使えるようになることを「使用語彙」と言うのです。 黒木)使用語彙。 宮崎)理解語彙と使用語彙。できれば、まずは理解語彙にしていただき、然るのちにそれを使用語彙として使っていただけると最高です。 黒木)私は「笑壺に入る」という言葉を知りませんでした。「上機嫌で笑うこと」なのですね。 宮崎)辞書的な語釈はそうなのですが、むしろ「ほら、笑いが止まらなくなるでしょう?」という感じの意味合いです。 黒木)「笑い」など、いろいろなカテゴリーで分けられていますが、「笑い」のところには「失笑」もあるではないですか。「どんな笑いだろう?」と自分で芝居するのですよ。失笑だったら「ふふっ」とか。 宮崎)それはいいなぁ。 黒木)「憫笑」は憐れんで笑うことですが、「どう憐れんで笑うのだろう?」という感じで、私は芝居と結び付けながら語彙を楽しんでいます。
宮崎哲弥(みやざき・てつや)/評論家 ■慶応義塾大学文学部社会学科卒業。 ■政治、経済、宗教、漫画、映画などを対象に評論活動を展開。 ■単に政治経済を専門とするだけの評論家とは違い、矢沢あい氏の人気漫画『NANA』に関して評論したり、ヴィジュアル系ロックバンド「LUNA SEA」のヴォーカリスト・河村隆一と対談したり、日本のヒップホップについて語ったりと、サブカルチャーやオタク文化全般に対しても深い理解を示し、好意的なスタンスにある。 ■2022年に『教養としての上級語彙 知的人生のための500語』を発売。中学生のころより本や雑誌、新聞からメモしてきた「語彙ノート」の1万語から500余語を厳選。読むだけで言葉のレパートリーが拡がり、それらを駆使できるようになる異色の「文章読本」となっている。