[新機軸]こどもに生きる力 保育士も全力投球(木更津大正会、千葉)
「東京湾アクアライン」の千葉県側の起点となる木更津市に、社会福祉法人木更津大正会(宮崎栄樹理事長)がある。保育を通じてたくましく生きる力を持ったこどもたちを育てようと、さまざまな取り組みを二つの保育所で実践している。市から民営化を委託された保育所の現在の姿と、全国的に注目されている〝森の保育=里山の保育〟にも注目し、現地に入った。 最初の訪問地、社会館保育園で出迎えてくれたのは、園庭で泥水まみれになった人懐っこい園児の顔々。園庭から木製のデッキに上がって園舎に。職員室に案内してくれたのは、園庭で遊んでいた4歳の男の子。 基本方針に「『自分は生まれてきてよかったのだ』と9歳までに確信させること」を掲げる。園長でもある宮崎理事長(76)は千葉県保育所監査官として、3年間にわたって4市50カ所の保育所を巡回監査する仕事をした後、50有余年にわたって、自園だけでなく県内、そして日本の保育に一石を投じるさまざまな試みに取り組んできた。 宮崎理事長の取り組みを紹介する。(1)園児のスモックを自由な服に(2)保育士の業務軽減に「連絡ノート」の廃止(3)食にこだわり、かむ力もつく玄米七分づき。給食調理用の油を米ぬか油、塩は伊豆大島産など。アレルギー対策も念頭に(4)園舎と園庭を結ぶデッキを、縁側の発想から設置。畳敷きの部屋を設け、園児に正座の体験も。 次の訪問先は海辺にある社会館吾妻保育園で、4年前に市から民営化第1号として委託された。2年前まで公立保育所の園長だった渡辺久美子園長(62)は、県内の保育士支援アドバイザー、保育事業者支援コンサルタントでもある。 「私はこどもの本音を抱きしめようと提唱する『抱っこ法』を理事長の賛同を得て、取り入れています。こどもがいやいやする根っこに、何をしようとしているのか。不安な心を抱きしめると、こどもはなんとかやれる気持ちになり、それが自信に。園の泥んこ遊びは、はだしあるいは上半身裸だったりしますが、心も裸に開放してくれるからこそ、こどもたちに受け入れられているのだと思います」 この園から10キロほど離れた場所に、3000坪(約9900平方メートル)の江戸時代末期の農家と山林を活用した分園がある。古い農家や土蔵などが市内の小学生対象の土曜学校、園舎を離れた保育の施設として使われている。周りの竹林、どんぐりの木など自然が手付かずである。もちろん園児が遊ぶ学びの場なので、森の専門家、直井洋司氏が付き、その見守りの中で、生きる力が引き出される。 保護者の声もたくさん聞いた。「思いっきり遊ばせる。泥んこ、いっぱい歩く散歩、とにかく外遊び。たくましくなりました」「保育士さんが全力で遊んでくれます」。 宮崎理事長はここまで園が進化した理由について「日本で失われ続けているかに見える、こどもの生きる力を取り戻したい。汚れても転んでも、自分で立ち上がる子、友だちを思いやれる子。大きくなって親に『生まれてきてよかった、ありがとう』と言えるこどもたちを増やしたいですね」。穏やかに、願いも込めて語った。 木更津大正会 1913(大正2)年、市内の各寺院住職らによって免囚保護事業開始。38年、旧厚生省認可の木更津社会館内に保育部門開設。戦後の48年、愛染院住職、宮崎識栄が代表に。82年、社会福祉法人取得。99年「森の学校」開始。現在、木更津社会館保育園(定員160人)、社会館吾妻保育園(定員60人)と地域子育てセンター2、学童保育所3などを運営。職員数98人。