『呪術廻戦』釘崎の“人生の席”に座る大切な存在ができるまで 瀬戸麻沙美の声色が見事
釘崎野薔薇はなぜ田舎を飛び出し、呪術高専東京校へ来ることになったのか。『呪術廻戦』第43話「理非-弐-」では釘崎の考え方を変えるきっかけとなった過去が明かされた。 【写真】金槌を持ち相手を見下している表情 ここまでシリーズ屈指のボリュームと言われる「渋谷事変」をアニメならではの演出を織り交ぜつつテンポ良く進んできたが、今回は釘崎の過去がたっぷりと尺を使って描かれた。重面春太との戦闘で傷を負った釘崎は「アイツらが戦ってるのに一人だけ帰るなんて私にはできない」と新田明の制止を振り切って帳の中へと向かう。だが、その道中で真人の分身体と遭遇する。釘崎は真人の両手に警戒しつつ応戦するが、いくら分身体とはいえ苦戦は免れない。だが、ここで釘崎は無策であることを印象づけた後、「簪(かんざし)」と「共鳴り(ともなり)」のコンビネーションで分身体の魂を打ち抜くことに成功する。正体を見破った釘崎の、相手を見下している表情と声優・瀬戸麻沙美の声色があまりにも絶妙で小気味いい。 「俺は独りじゃないとそう思わせてくれて」 釘崎のおかげで分身を通じて真人本体へもダメージが反映されると、その間に虎杖悠仁は攻撃を畳み掛ける。本来この一連のシーンは虎杖が自分の存在意義と仲間への信頼を明かす大事な場面ではあるが、アニメ版では早送りとスローを織り交ぜながら丁寧に描いていたのが印象的だった。 第43話で描かれたのは釘崎の知られざる過去。「当時の私は村の人間は全員頭がおかしくて、自分だけが正気だと思っていた」という釘崎の言葉から始まる過去の回想シーンでは、釘崎の幼なじみであるふみの視点から語られる。小学生に上がるタイミングで村に引っ越してきたふみは、みんなが赤か黒のランドセルを選ぶ中で、唯一水色のランドセルを背負っていた。原作ではふみに対して行われていたいじめの実態が省かれていたが、アニメ版では詳細に描かれていたことからも製作陣が何を伝えたいのかが伝わってきた。そんなふみに寄り添ったのが釘崎だった。 釘崎の「友達になるより他人になる方が難しい」という言葉。ふみの近所のお婆ちゃんがいきなり赤飯を持ってきたというシーンは、現在ではあまりない風習かもしれないが、田舎ではかつて初潮を迎えた女性に対して赤飯を送るというものがあった。いまの価値観で考えるとあまりにも気色が悪いが、昔は当然のように見ず知らずの近所にまで話が広がることは当たり前のようにあったらしい。さらに当時の釘崎にとって心の拠り所になっていた沙織ちゃんは、ある時を境に家にはゴミや「消えろ!」「迷惑」といった落書きの数々、さらには人為的に積まれた雪などの迫害を受けていたことが明らかになる。 作中では明言されていないものの、閉鎖的な社会が形成されている田舎にとって、沙織ちゃんのような都会的でお金持ちな家族は気に食わないのだろう。個人的な経験で大変恐縮であるが、筆者もいわゆる田舎出身だったため、よそ者への村八分や情報が全て筒抜けになっているというのは当たり前のように経験している。それが東京へと出てくるきっかけとなったという点では釘崎とは近しいものがあり、とても共感できたエピソードだった。だが、アニメでは田舎ならではの広大な自然、真っ赤に染まった夕日といった細かな景色の描写も徹底的に描いているように、田舎の良さがあることも事実だ。 かつて「私の人生の席っていうか そこに座ってない人間に 私の心をどうこうされたくないのよね」と語っていた釘崎だったが、ラストシーンでは虎杖や伏黒恵、五条悟、禪院真希、狗巻棘、パンダが“私の人生の席”に座っていた。それは釘崎にとって大切な存在ができたということだ。釘崎の「悪くなかった」という言葉が最期であってほしくない。
川崎龍也