朝ドラ『ブギウギ』“大阪編”を締めくくる怒涛の展開 趣里たちによる圧巻の「桜咲く国」
『ブギウギ』(NHK総合)の序章「大阪編」を締めくくる第25話は、放送尺15分間の中で浮き沈みが激しい怒涛の展開が続く。 【写真】朝ドラ『ブギウギ』スズ子(趣里)がツヤ(水川あさみ)ら家族に東京行きの決意を伝える それは、亡くなった礼子(蒼井優)のお別れ会から、東京行きが決まったスズ子(趣里)と秋山(伊原六花)の退団公演まで。第5週を振り返れば、スズ子が自身の出生の真実を知り、母親のキヌ(中越典子)に会いに行くところから始まっているのだから、その起伏は週全体に言えることだろう。 ただ、第25話を観終えた時にしっかりとまとまりのある構成に感じられるのは、週のタイトルにも表れている「家族」がテーマとして存在しているからだ。お別れ会の場でスズ子が礼子の両親に告げた「お会いできてよかったです」という言葉が印象的に残っている。父と母に反対されて、縁を切ってまでも梅丸で踊りを続けていた礼子。会に参列し、股野(森永悠希)が抱く自身の孫と初めて対面してもなお、娘を亡くした思いを恨みに変えて梅丸へとぶつける父の行動は白い目で見てしまいそうになるが、それほどまで礼子に愛情を注いでいたと取ることもできる。同時に自身の命に代えてでも子供を産みたいと決断した礼子の思いまでもが透けて見えてくる。 ツヤ(水川あさみ)がスズ子の東京行きに反対していたのもまた、スズ子を本当の我が子のように愛していたからだ。3年前に香川に行ってからというもの、スズ子の微細な変化からその出生を知ってしまったのではないかと察しているツヤ。だからこそ、スズ子が東京に行けば、自分たちとの家族の縁が切れてしまうのではないかと恐れていたのだ。もちろんそれは梅吉(柳葉敏郎)も同じ思いだった。「身勝手でずるい人間」だと自分たちを認めながら、2人は上京するスズ子の背中を後押しすることを決める。「人は自分が『これや!』って思うことで生きていくんがええ」と幼いスズ子を育ててきたのはツヤなのだから。涙をこらえるツヤの表情からはスズ子と離れ離れになりたくない思い、そして母親として娘を東京へと送り出すことへの決心が滲んでいる。 スズ子は礼子を失ったことで、彼女への尊敬と感謝の念が溢れ出ていた。そのことに気づいた、という方が正しいのかもしれない。まだ研究生だった頃に、稽古場で礼子からかけられた「あなた、どうして踊るの?」という問いかけ。礼子のような観るものを釘づけにするスターに、そして「お客さんを励まして、お客さんに励まされながら、もっともっと今よりももっと歌って踊ることが楽しゅうなりたい」というのが、スズ子が東京に行く理由、踊ることの意味だ。 晴れやかな笑みで東京に送り出そうとするツヤと涙でクシャクシャのスズ子。「つらなったらすぐ戻ってくるんやで。我慢したらあかん。すぐ帰れる場所があるいうことを忘れたあかんで」とツヤはスズ子の手を握り、やがて梅吉と六郎(黒崎煌代)も混ざって、ギュウギュウになって抱き合う4人。そこには、血縁関係を超えた“ほんまの家族”があった。 「大阪編」ラストを飾る秋山とスズ子をメインに据えた「桜咲く国」も素晴らしい。燕尾服を着た秋山と白いドレスのスズ子らが持つのは桜色のパラソル。「桜咲く国」は本作のモデルとなっているOSKで今も歌い継がれる定番曲で、言うまでもなく2人の卒業に桜が咲くというメッセージが込められた華々しいステージだ。 次週からは新天地・東京での物語がスタートする。そこで待ち受けていたのは、スズ子の運命の鍵を握る作曲家・羽鳥善一(草彅剛)との出会いだった。
渡辺彰浩