「広い工房を自転車で走りまわる姿に一本取られた」戦後ドイツと死に向き合い続けた芸術家、その創作のすべて 「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」を採点!
〈解説〉
役所広司が主演した『PERFECT DAYS』も記憶に新しい名匠ヴィム・ヴェンダースが、長年交流のあった同い年の芸術家、アンゼルム・キーファーの創作の全てに迫るドキュメンタリー。 1945年生まれのアンゼルムは、戦後ドイツを代表する芸術家。幅広いジャンルで独自の世界を構築し、ナチスや戦争といったドイツの暗黒の歴史、神話などをモチーフに、一貫して戦後ドイツと死に向き合い、“傷ついたもの”に鎮魂の祈りを捧げてきた。 ヴェンダース監督は、膨大な作品群や巨大なアトリエを、2年以上の歳月をかけて6K&3Dで撮影。再現ドラマ部では、アンゼルムの息子が青年期を、ヴェンダースの孫甥が幼少期を演じる。93分。 中野翠(コラムニスト)★★★★☆母国ドイツの敗戦の年に生まれた映画監督と芸術家。「後ろ向きに前に進む」という思い。上映時間93分も適切では。 芝山幹郎(翻訳家)★★★★☆広い工房を自転車で悠然と走りまわる姿に一本取られた。「頑健と剛直」が表面に露出しすぎていて、ちょっと窮屈だが。 斎藤綾子(作家)★★★☆☆アンゼルムの「傷ついた世界」に猛烈なパワーを感じるのは監督の力か。闇を芸術する二人の肝の太さにややげんなり。 森直人(映画評論家)★★★★☆ヴェンダースの“3Dラボ”の快作。独の戦後史を抉る同世代畏友の多層的な肖像を捉える。立体視も高度な洗練に到達。 洞口依子(女優)★★★★☆ツェラン、ハイデガー、ヨーゼフ・ボイスを経由したキーファーの遺産を立体視と詩的な対話で観客へ共振させる名作! INFORMATIONアイコンアンゼルム “傷ついた世界”の芸術家(独) 6月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開 https://unpfilm.com/anselm/
「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年6月27日号
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