富士山静岡空港会社の西村社長。東京・大阪の大空港に挟まれていることは「逆転の発想からするとメリットだと思う」＝PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

　開港15周年を6月に迎えた静岡空港。静岡県が設置した地方管理空港で、2009年6月4日に開港し、愛称は「富士山静岡空港」と名づけられた。2019年4月1日に民営化され、三菱地所（8802）と東急電鉄（9005）のコンソーシアム（企業連合）が運営を始めた。 　現在はフジドリームエアラインズ（FDA/JH）が札幌（新千歳）、札幌（丘珠・夏ダイヤのみ）、出雲、福岡、熊本（期間運航）、鹿児島の国内線6路線を運航し、全日本空輸（ANA/NH）が7月1日から札幌（新千歳）と那覇の国内線2路線を再開した。国際線はチェジュ航空（JJA/7C）のソウル（仁川）線が週7往復（毎日運航）、中国東方航空（CES/MU）の上海（浦東）線が週3往復に加え、7月10日からは北京首都航空（CBJ/JD）の杭州線が週2往復で再開となった。 　また、11月にはベトナムのベトジェットエア（VJC/VJ）が双方向チャーターを運航。ベトナム発はニャチャン－静岡間、日本発は静岡－ハノイ間で運航する。 　「コロナ前の2019年度は国際線の比率が4割で、そのうち8割が中国だった」と説明する富士山静岡空港会社の西村等社長。静岡空港の東には羽田と成田、西は伊丹と関空があり不利に見えるが、必ずしもそうではないという。「大空港に挟まれたデメリットはあるが、静岡をイン・アウト両方使う方は3割くらい。逆転の発想からするとメリットだと思う」と、東京と大阪の間だからこそできることがあるという西村社長に聞いた。 ◆自治体ができないことをやれる 　「関空から入って、東京に行って、最後富士山を見て静岡から帰る。成田でもそうだ。逆に静岡から入って、東京や大阪に行って関空アウトという使い方ができる。こういう使い方は、実はほかの地方空港ではできないのでは、という部分がある」と、東京・富士山・大阪という訪日客の「ゴールデンルート」と静岡空港を組み合わせた旅行商品が組めるという。 　そして、ターミナルのコンパクトさが空港に不慣れな人にも使いやすいという。「静岡はストレスフリー。日本人向けには『パスポートを持った国内旅行』とよく言っているが、迷うことがない」と、地方空港ならではの良さを挙げた。 　一方で、「静岡県内に経済波及効果をもたらすのは我々の役割」と、静岡の観光コンテンツを発掘するのも重要な役割だという。インバウンド需要を獲得する上では、静岡は外資のホテルチェーン進出が課題となっており、浜松市にあるグランドホテル浜松が改装後、浜松マリオットホテルとして2025年11月にもリニューアルオープンする。 　現状では近隣の山梨県と比べても宿泊施設が少ないといい、「1泊でも2泊でもしていただけるようにしたい。グローバルなところがあると、じゃあここで1泊しようとなるのでは」と、今後の宿泊施設充実に期待を寄せる。同じ静岡県内でも東部の伊豆は「羽田に取られてしまう」といい、「アクセスを充実させることと、観光コンテンツをどうやって情報発信していくかだと思う」と、空港のウェブサイトで観光情報を充実させるなどの取り組みを進めている。 　こうした静岡県内の観光を盛り上げていく中で、コロナ期間にはFDAと大井川鉄道、空港会社の3社によるコラボ企画を立ち上げるなど、空港会社が地元企業の情報を発信する試みも行われた。「ツアーを考える上で、旅行業登録を行った」と、空港会社が自ら旅行商品を提案できるようにした。 　「行政が特定の企業を売り出すことはできないが、我々は公共性もありつつ民間なので、“えり好み”ができるのも強みだと思う」と、民営化された空港だからこそ、特定の企業を前面に出すといった、自治体がやると角が立つこともできるという。 ◆過度な中国依存脱却しベトナムチャーター 　コロナから回復していく上で、静岡空港の課題は国際線旅客の中国依存度を下げることだ。 　「中国が8割というのは、ちょっと中国一本足すぎるのではと県内でも結構言われた。我々も確かになと感じており、就航国を広げていきたい。東南アジアまで広げて路線を増やしていくイメージだ」と西村氏は説明する。 　11月にもチャーター便を運航するベトジェットエアは、2023年3月23日に初めて静岡へのチャーター便を運航。ダナン発とハノイ発のインバウンド専用チャーターで、静岡空港にとってベトナムとのチャーター便は、ベトナム航空（HVN/VN）が2012年3月に運航して以来11年ぶりとなった。今年3月には、日本の旅行者も利用できる双方向チャーターとして運航され、11月のチャーターも同様の旅行商品が販売される。 　「ベトナムは訪日客数として増えているし、お金も使っていただいている。結構1人あたりの消費額が大きい」と明かす。「2023年春がダナンとハノイだったが、単価が違う。うちは免税店が直営なのだが、やはりハノイの方が単価が高い」と、地域ごとの違いがあるという。 　「ベトナムに進出している企業の方からは、『ベトナムいいね』っておっしゃっていただいている。やはりビジネス需要はある程度あったほうがいい。上海はそれがある」と、インバウンド需要だけでなく、海外出張の需要も取り込める路線誘致を目指す。 　一方、国内線はどのような路線に期待しているのだろうか。「やはり静岡から行きにくいところへのニーズがある。東北だと仙台とかだ。四国もやはり言われる」と、同じく三菱地所が空港会社に出資する高松空港は、就航先として有望な一つと言えそうだ。仙台空港は運営する仙台国際空港に東急が出資しており、両空港とも静岡とは縁がある。 　羽田・成田と伊丹・関空といった大空港に挟まれた静岡空港。東京に近すぎて不利になるかと思いきや、周遊するインバウンド需要を取り込むとなると、スロット（発着枠）に余裕があり、東京や大阪の観光に加えて富士山や国内最大規模のアウトレットモールで三菱地所系の「御殿場プレミアム・アウトレット」といった静岡県内の観光地を組み合わせた旅行商品を提案できるという強みもある。 　「徳川家康が晩年を静岡で過ごしたのは何となくわかる。冬が違う。気候がいいんだなと思う」と、過ごしやすい気候も静岡の良さだという西村氏。「あとは県民のみなさんが静岡空港に期待されている。本当に5年半いて思う」と、地元の期待の大きさを日々感じているという。 　くしくもコロナにより、従来の中国頼みから転換する機会を得た静岡空港は、新たに始まったベトナムチャーターが順調だ。空港会社が旅行業登録をしたことで、地元企業と連携した旅行商品も企画しやすい立場になった。コンパクトな空港を武器に、新たな空の旅を提案していくことになりそうだ。