ノミネート基準、受賞発表方法など…長い歴史のなかで変わり続けてきた「アカデミー賞」
日本時間3月11日(月)に迫った第96回アカデミー賞。アカデミー賞といえば、近年顕著になっているように、時代にあわせてルールや部門など様々なものが形を変えてきた。100年近い歴史のなかでなにが変わってきたのか?その変遷をまとめてみた。 【写真を見る】受賞者は事前発表だった !?「アカデミー賞」のルール変更の歴史を追う ■第1回では事前に知らされていた…!?受賞者発表方法の変遷 “立派な業績を認知すること”と“立派な業績を残すよう奨励すること”を目的に、映画芸術科学アカデミーによって、1929年5月に第1回が開催されたアカデミー賞。もともとは映画関係者の内輪的なお祝いといったもので、その部門数も12と控えめ。ハリウッド・ルーズベルト・ホテルで催された授賞式もわずか15分ほどで終了したという。 ラジオ中継が始まるなど賞として格が上がった第2回からは、式典として様々な点がブラッシュアップされていく。その一つが受賞者発表の方法だ。実は第1回では受賞者は授賞式の3か月前に発表されており、誰が受賞するのか?という緊張感がまったくないものだったが、第2回からは授賞式まで結果を秘密にすることが決定し、新聞社にあらかじめリストを送り、授賞式の夜に結果を発行するという方法が採用される。 この方法が定着していくかと思えたが、第12回でロサンゼルス・タイムズ紙が情報を漏洩させてしまい、翌年の第13回からは密封された封筒を使用した、現在まで続くスタイルへと変化。なお、第89回では封筒の取り違えにより、作品賞が誤って発表されるという大事件が起こったことも記憶に新しい。 ■時代にあわせて部門数も増減! 設けられている部門も数が増えたり減ったり、名称が変わったり、統合されたりと世の中や技術の進歩にあわせて絶えず変貌を遂げてきた。現在は全23部門が設けられているが、先ほども述べたように第1回ではその半数近くの12部門だった。 「作品賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」「撮影賞」「美術賞」といった現在もおなじみの部門は第1回から存在。また「作品賞」に加えて設けられていた「芸術作品賞」(『サンライズ』が受賞)、「監督賞」を2つに分けた「コメディ監督賞」と「ドラマ監督賞」など重複するような部門もあり、これらはブラッシュアップに伴い7部門に激減した第2回からは廃止。第1回だけでしか贈られなかったある意味、貴重な賞だった。 その後、少しずつ部門数は増え、30年代のトーキーの隆盛に伴い、第3回からの「音響賞」や第7回からの「作曲賞」と「歌曲賞」など音まわりの部門が追加。また、30年代後半からのカラー技術の発展により、「撮影賞」「美術賞」「衣装デザイン賞」にはしばらくの間、それぞれモノクロとカラーの2部門が設けられていた。 ここ最近は2001年に設けられた「長編アニメ映画賞」を最後に部門は増えていなかったが、2025年度の第98回から「キャスティング賞」が設けられることが決定済み。さらには長年話題に上がっていた「スタント賞」についても「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキ監督が実現に向けて動いており、近々加わることになるのではと予想されている。より多くの職業にスポットが当たり、業界の活性化を促してくれそうだ。 ■「作品賞」をめぐるノミネートのあれこれ 部門だけでなく、ノミネート資格や選出方法などレギュレーションも細かく変更されているアカデミー賞。2020年には一部の選りすぐりメンバーで構成される執行委員会によって行われていた「国際長編映画賞」のノミネート最終選考員が公平ではないという理由から、条件をクリアした全アカデミー会員にまで拡大されるなど、各セクションでなにか問題点が見つかれば、常々、改善策が施されてきた。 なかでも「作品賞」は、アカデミー賞の“最高賞”ということもあり、ほかの部門に比べ、より頻繁にレギュレーションの改善が行われている印象だ。例えば、ノミネート作品の本数に目を向けてみるとよくわかる。 「作品賞」のノミネート作品数は、第17回から長らく5本で固定されていたが、2009年、評価の高かった『ダークナイト』(08)が作品賞候補から漏れたことに批判が集まると、翌2010年に催された第82回ではノミネートが一気に10作へと拡大。 また第84回には、会員の投票の5パーセント以上の得票率を得た作品から5~10本を選ぶ変動制を導入すると、さらに第94回からは再び10本で固定と目まぐるしく本数が変化してきた。本数の増加に伴い、第82回から作品賞の投票方法も改善され、1作品を選ぶのではなく1位、2位、3位...と順位を付けていく優先順位付投票制に変化した。 ■多様性の実現を目指す近年の取り組みとは? そんな作品賞をめぐるトピックのなかでも最も大きい動きが、ノミネート資格に「多様性」に関する条件が設置されたことだ。2016年、俳優部門で有色人種が1人もノミネートされなかったことから、授賞式のボイコットなどが起こった、いわゆる“#OscarsSoWhite”ムーブメント。 この非難を受け、映画芸術科学アカデミーは、高齢の白人男性ばかりだったアカデミー会員における女性、有色人種の割合を増やすなど偏りの是正に努めており、先述の「作品賞」10本固定もその策の1つ。そして最たる取り組みが「多様性」に関する新基準の設置だ。 ざっくりいうとノミネートのためには「テーマや物語、主要キャストなど映像に現れるもの」「製作スタッフにおけるリーダー」「有給インターンなどの雇用」「配給・宣伝・マーケティング」の4カテゴリーのうち2つ以上で、性別・人種・性的マイノリティ・障がい者といった少数派グループを含む必要があるという条件だ。2020年に発表され、いよいよ基準が適用されるのがまさに今回の第96回からとなる。 さらに来年の作品賞の対象条件として、これまで以上に”劇場公開”を重視した内容となり、NetflixやApple、Amazonといった配信系作品にとってはより劇場公開に力を入れないといけなくなる模様。今後も様々な条件が加わっていくことになりそうだ。 その絶大なる影響力を活かし、誰に対しても公平な映画業界を作り、よりよい作品を生みだすために、時代にあわせて絶えず変わり続けてきた「アカデミー賞」。それまでのやり方を変える際はなにかと批判がつきものだが、変化をポジティブに受け止めたいところだ。 文/サンクレイオ翼