「チャイしばかんか」。インド安宿街に響く関西弁 コルカタの名物ガイド、サトシさんのアドバイスとは?
「近くでチャイでもしばいていかへんか?」。インド東部を代表する大都市コルカタの安宿街に流ちょうな関西弁が響く。声の主はインド人ガイドのサトシさん。日本人旅行者との会話で関西弁を習得した。コルカタは詐欺師やぼったくりが多いと言われるが「本当はええところやと知ってほしい」と願う。 本名はナビンシンハさん。生年月日は「おかんに聞いたけど、分からへんねん」。1974年1月生まれということにしている。(共同通信ニューデリー支局 岩橋拓郎) 地元出身。小学校に5年通ったが、警備員の父の給料だけでは生活が苦しく、自分も働こうと思い立った。知人に相談すると、日本人相手に絵はがきを売ったらいいと助言を得た。 1980~1990年代、安宿が集まるサダルストリートに多くの日本人バックパッカーがいた。「特に神様の絵はがきが人気やった。お香やお茶もよう売れた」。節約旅行を続ける日本人は身なりは汚いが、心は「めっちゃきれい」と感銘を受け、日本語を学ぶことにした。
当初は日本語ができるインド人に標準語を学んだが、他のガイドと違いを出せるという計算で関西弁にかじを切った。その後は関西出身旅行者と会話を繰り返した。標準語はほとんど忘れた。 「日本人旅行者にサトシという人がおって、覚えやすいから俺もサトシと名乗り始めた」。土産物は通信販売に押されるようになり、6年ほど前からガイドも始めた。日本人が行きにくい地元の市場や工場に案内し「収入はぼちぼちですわ」。 旅行者に法外な額の謝礼を請求したり、高額な土産を無理やり買わせたりする悪徳ガイドも多い。「俺も不届き者と同じ扱いをされることがあって迷惑なんや」。自身は日本の有名旅行ガイド本でも紹介されている。 2019年、旧知の旅行者を頼って念願の訪日を果たし、約2週間の滞在した。京都や大阪で鍛え上げた関西弁を披露。「うまい、うまい」と褒められたという。 サトシさんは30年以上、日本人旅行者を見てきて変化を感じている。以前は相手を信頼できるかどうか対面で必死に見極めようとしていたが、最近はスマートフォンをのぞいてばかり。「相手の目をしっかり見て話さな、だまされてしまうで」。心あるガイドからの忠告だ。