2024大統領選で劣勢バイデンに最後の一撃か、イスラエル支援にイスラム票が離反、蜜月に終止符
バイデン政権の左傾化がトランプ陣営にとっての敵失
バイデン政権の対応が批判を浴びる反面、イスラエル寄りの姿勢を崩していないのは、どちらかといえば共和党だ。そもそも4月に成立した、イスラエルやウクライナなどへの支援を盛り込んだ国家安全保障に関する緊急追加予算法につき、共和党が過半数を占める米下院でイスラエル支援への反対は58票のうち共和党は財政タカ派を筆頭に21票だった。民主党の37票(イスラム教徒の3議員を含む)を下回る。 さらに、米下院は5月16日、イスラエルへの武器供与の保有や停止、破棄などを防ぐ法案を可決。ただ、多様性や人権重視を掲げる民主党が過半数の米上院で同法案が取り上げられる可能性は低く、仮に通過したとしても、バイデン氏は拒否する構えだと報じられている。 トランプ前政権自体、親イスラエルの旗印を明確にしていた。就任早々の2017年1月、テロ対策強化の一環として、大統領令でイスラム教国からの入国禁止を発令。同年12月にはエルサレムをイスラエルの首都として承認し、2018年5月には大使館を移転させた。長女イバンカは夫のジャレッド・クシュナー氏がユダヤ教徒とあって自身もユダヤ教に改宗、そのクシュナー氏はネタニヤフ首相と懇意とされる。一方で、クシュナー氏は2020年、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)を始めアラブ諸国との国交正常化、いわゆる「アブラハム合意」に貢献し、イスラム世界から評価された側面をもつ。 そのトランプ氏は、ハマスによるイスラエルへの攻撃が始まってまもない2023年10月、自身が再選されればバイデン政権下で撤回されたイスラム教国からの入国禁止を復活させる可能性に言及した。 では、アラブ系やイスラム教徒の間でバイデンへの支持率が低下しているのだろうか? ニューヨーク在住でイスラム教徒のプエルトリコ系アメリカ人は「イスラエル支援の姿勢は、最後の一押しに過ぎない」とし、バイデン政権の「多様性・公平性・包括性(DEI)」の推進を問題視した。ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、シャデイ・ハミッド氏も2023年11月に論説欄にて、イスラエル支援の立場に加え「民主党の文化的、社会的な価値観の左傾化があり、特に公立学校でのLGBTQ+をテーマとした授業は火種になった」と分析する。 2000年の米大統領選で共和党のブッシュ(子)候補に対し、イスラム教徒の支持率が7割を超え圧倒的多数だったように、本来、彼らが保守寄りという点を忘れるべきではないだろう。イスラム法学は伝統的に同性愛を禁じるほか、中絶についても120日以内であれば許容する宗派もあるものの、母体を救う以外は禁止の立場を採用する場合もあり、比較的保守寄りだ。 昨年の6月7日に本コラムで「バドワイザーも大バッシング、全米で反LGBTQ+の嵐、吹き荒れる、大統領選振り回す予感」と指摘した通り、DEIが2024年の米大統領選の攪乱要因になっていると言えよう。第32代大統領のフランクリン・D・ルーズベルト氏は、「大統領は選択されるのであり、選出されるのではない」との名言を残したが、イスラム教徒が共和党に鞍替えするのか、あるいは投票を見送るのか、バイデン氏を選ぶのか。少なくともバイデン政権の左傾化が、トランプ陣営にとって敵失となっていることは間違いない。
安田 佐和子(株式会社ストリート・インサイツ代表取締役)