新石垣空港の滑走路延長 「保守系の首長がいるうちに」既成事実化を狙う防衛省 [インフラ整備 潜む防衛の影](上)
[インフラ整備 潜む防衛の影](上) 「国からもバックアップよろしくお願いします」 【写真】「国民保護にもつながる」と木原防衛相 防衛態勢強化のためのインフラ整備をめぐり 昨年12月19日、中山義隆石垣市長は防衛省を訪ね、新石垣空港の滑走路延長などの予算措置を木原稔防衛相に訴えた。木原氏も市と連携しながら対応する考えを伝達。政府関係者は「防衛省としては、いわゆる政府・与党系、保守系の首長がいるうちに既成事実化させておきたいとの思惑がある」と解説した。 防衛力強化の一環として、政府が進める総合的な防衛体制の強化に向けた公共インフラ整備。北海道や沖縄など10道県、38カ所が「特定利用空港・港湾」の候補で、うち沖縄は12施設が対象。新石垣空港、石垣港もこの中に含まれる。 ■丁寧な説明 政府は、自衛隊や海上保安庁による普段からの「円滑な利用に関する枠組み」に自治体と合意できれば、事業化したい考えだ。あくまで「民生利用を主とする」と強調し、自治体へ理解を求めている。 だが、振興に資するとはいえ、自衛隊や海上保安庁のニーズを満たす施設を整備し、日頃からの円滑な利用を確保することが目的。軍事利用の拡大を警戒する県は「引き続き調整が必要」として整備要望を保留する。 国が管理する那覇空港、市管理の石垣港の場合、基本的に県の合意は不要だ。それでも、沖縄振興計画における位置付けも考慮する必要があるとして、政府内にも「県の頭越しにはできない」との声がある。 政府関係者は「沖縄県には他県の10倍丁寧に説明している」と強調。整備には民間需要、つまり地元のニーズが不可欠なことから、県側が納得できるよう粘り強く説得を続ける考えを示した。 ■分断を懸念 「市は2018年から新石垣空港の滑走路延長を求めており、経済振興だ。県は国防だと言って渋り、離島軽視も甚だしい」 かねて求めてきた新石垣空港の機能強化へ前進する兆しが見える中、同空港を管理する県が慎重姿勢を崩さず、中山市長はいらだちを隠さなかった。 石垣市議会では昨年12月、同空港の滑走路延長などを国へ求めるよう県に要求する意見書が緊急動議で提出され、可決された。念頭にあったのは24年度の当初予算編成の期限。議会として中山市長の国や県への働きかけを後押しする狙いがあったとみられる。 一方、予算確保へ積極的に乗り出す自治体とは裏腹に、任務に当たる現場からはインフラ整備を進める切迫性は「正直ない」と慎重な声も漏れる。 ある政府関係者は、抑止力を対外的に見せる意味はあるとしつつ、「空港・港湾の機能強化に越したことはないが、実情として今すぐに整備が必要だとは思わない」と指摘。 整備を巡り地元の対立が深まることを懸念し、こう続けた。「一番面白くないのは、結果的に住民の意見を二分すること。誰がそんなこと望むのか」(東京報道部・嘉良謙太朗、新垣卓也、八重山支局・平良孝陽) ■ ■ 政府が進める総合的な防衛体制の強化に向けた公共インフラ整備。政府が整備を急ぐ中、自治体は振興と軍事の両面で揺れている。交錯する双方の思惑に迫る。