吉田沙保里が階級変更で見せた課題
ところが、大会終了後には栄和人強化委員長から「2020年の東京五輪まで吉田にまかせようという気持ちではいけないと思った」という内容の評が出てきた。これまでは、「伊調馨と吉田の2人は盤石の強さなので6年後も心配がない」というのがお約束のコメント内容だったことを思うと、大きな変化だ。 「以前だったら、あと2点でテクニカルフォールがとれるとわかれば確実に取りに行き、相手に実力差を見せつけて勝つのが吉田のやり方だった。ところが、長い現役生活を送るあいだに自らの手の内は相手に知られる一方になる。吉田や伊調を、怖がらずにどんどん攻める若手も伸びてきている。2016年リオ五輪については彼女たちに金メダルを取ってもらうんだという気持ちでいる。しかし、その後は若い世代が彼女たちと同じように勝てるように育てたい。 もちろん、ベテランでも2020年東京五輪を目指すのはよいこと。でも強化としては、彼女たちが2020年に金メダルを自分でとろうなんて考えられないくらいの強さを持った次世代の選手を育てたいと思っています」 吉田の最大の弱点は、加齢による肉体的変化よりも精神的なものの方が大きいだろう。経験を積むと、勝負の機微がよくみえて勝敗を決する場面で有利なことも多いが、色々と知ってしまったがゆえに非情になりきれず迷うこともある。3ヶ月前に急逝した父・栄勝さんが生前「あの子は優しすぎるのよ」と評した、勝負の場面でも厳しさに徹しきれない優しい性格と、あらためて向き合う時間がきたようだ。 子どもの頃から気持ちの切り替えが上手と言われてきた吉田なら、9月の世界選手権では、死角がない姿で世界15連覇を達成していることだろう。 (文責・横森綾/フリーライター)