『ゴジラ-1.0』から『トットちゃん』まで “戦争”の面影を持つ映画が増えている背景とは?
2023年に公開された国内映画では、太平洋戦争を主題とした、もしくは太平洋戦争による作家個人の影響が著しく表れた作品が目立つ傾向にあった。『ゴジラ-1.0』や『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』などがそれに当たる。アニメーション映画の領域においても、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』や『君たちはどう生きるか』、『窓ぎわのトットちゃん』などには戦争の面影が色濃く表れていた。 【写真】 『ゴジラ-1.0』場面写真(複数あり) そして、これらの映画の影響を受けて、当時の歴史的な背景を知ることができる資料館へと足を運ぶ人が増えている。福岡県朝倉郡筑前町にある筑前町立大刀洗平和記念館では、常設展示している幻の戦闘機『震電』が『ゴジラ-1.0』の撮影に使用されたことで、連日多くの人が来館しているという。(※1) また、2022年12月に公開された『ラーゲリより愛を込めて』の影響からか、強制収容所など現地の様子を再現し、当時の資料も多数展示している平和祈念展示資料館の来館者が、前年比で2倍以上に急増したデータもある。(※2)特に増加したのは、30歳代以下の若い世代の来館だという。この流れもあり、2023年は、「若者の“戦争”への関心が高まった年」であったと言えるが、いくつかのヒット作が導いたこの状況は何を意味するのだろうか? 日本においては、『永遠の0』や『この世界の片隅に』など太平洋戦争を扱った作品が数多く作られてきた。一方で世界市場においては、相対的に太平洋戦争を扱った映画作品の数は少ないと感じる。これは日本市場のある種の特異性を示しているが、そうした日本の映画にはある特徴がみられる。
「若者の視点を軸に作品を描いている」という特徴
それは「若者の視点を軸に作品を描いている」という特徴だ。先ほど例に挙げた『永遠の0』では、現代を生きる孫の青年を通して、誰よりも死ぬことを恐れていた男が太平洋戦争で特攻兵に志願した姿が、『この世界の片隅に』では、海軍の街・呉に嫁いできた18歳のすずを通して、戦時中の日本の日常が描かれた。この視点を取り入れた作品が増えたことで、戦争映画に対するハードルが低くなり、“若者世代でも共感しやすい戦争映画”が増加していったのだ。 とはいえ、2023年にヒットした理由はそれぞれの作品の独自性によるものが大きい。例えば、『ゴジラ-1.0』のゴジラような特異な存在や『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のタイムスリップ設定のような、戦争を軸としないオリジナルの要素も盛り込まれている。戦争を描いた“から”ヒットしたというわけではないが、世界が戦禍に包まれている現状がある中で、こうした人気作が若者の関心を高める契機となったのは事実だろう。 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』©️2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会 太平洋戦争の終結から78年が経過した。この時の流れは、1人の人間の生涯に並ぶ時間と言っても過言ではない。語り部の存在が少なくなっていく中で、戦争が残した深い傷跡と教訓をどのように心に刻み続けるべきかが問われている。そんな今だからこそ、歴史を知るための「入り口」となっていることは、非常に意義のある流れだと感じている。 参考 ※1. https://readyfor.jp/projects/tachiarai-heiwa02/announcements/297904 ※2. https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02241/
すなくじら