酒類メーカーがノンアルコール飲料に大金を投じる理由…それは米医務総監が発がん性警告表示を推奨する前から始まっていた(海外)
大手酒類メーカーは、ノンアルコール飲料を好む文化の変化に備えている。 30歳未満の若い消費者は、アルコールの購入量も飲酒の頻度も少なくなっている。 ハイネケンやアンハイザー・ブッシュ・インベブなどのブランドは、独自のノンアルコール飲料を発売して売り上げを伸ばしている。 2025年1月3日にアメリカの公衆衛生政策を統括する保健福祉省(HHS)の医務総監がアルコール飲料について、がんを発症リスクについて明記したラベルを付けるべきだと警告する前から、バドワイザー(Budweiser)やミケロブ・ウルトラ(Michelob Ultra)などのブランドの親会社であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)やハイネケン(Heineken)などの大企業は、ノンアルコール飲料を優先する文化の転換に備えていた。 近年、全国的にほとんどの種類のアルコール飲料への支出は減少しており、特に若い成人で減少している。 ギャラップ(Gallup)が2023年に発表した調査データによると、30歳未満の若い消費者は、この20年間でアルコールをまったく飲まなくなる傾向が徐々に強まっているという。また35歳未満は、62%の人が飲酒すると答えているものの、20年前の72%からは減少している。 酒は飲みたくないものの、特別な日には何かぜいたくを楽しみたいという市場のニーズに応えるため、大手ブランドはノンアルコール商品を発売している。 ハイネケンはノンアルコールビールの「ハイネケン0.0(Heineken 0.0)」を2017年3月に初めてオランダとドイツで発売し、2019年1月にはアメリカにも販売網を広げている。 「コロナサンブリュー0.0%(Corona Sunbrew 0.0%)」は、モデロ(Modelo)やコロナ・エクストラ(Corona Extra)などのビール、ワイン、スピリッツを生産する企業、コンステレーション・ブランズ(Constellation Brands)から2022年に発売された。また、バドワイザーやミケロブ・ウルトラを含む500の世界的なブランドの飲料を生産するアンハイザー・ブッシュ・インベブは、同じ年に「コロナ・セロ(Corona Cero)」を発売している。コンステレーション・ブランズは、アメリカでのコロナビールのライセンスを所有し、一方、アンハイザー・ブッシュ・インベブはその他の世界市場でのライセンスを所有している。 そして、ノンアルコール飲料への賭けは成果を上げていると各企業の幹部は最近の業績報告で話している。 ハイネケンのハロルド・ファン・デン・ブルーク(Harold van den Broek)CFOは2024年10月の業績発表で、「アメリカを含む多くの市場でノンアルコール飲料の売上が加速している」と話している。彼によると、ハイネケンブランドのノンアルコール飲料は発売以来、同社が販売するすべての飲料製品全体の4%以上を占めるまでに成長しているという。 「このカテゴリーは2018年以来、平均で約6%の成長を遂げており、今後もこの成長軌道をたどると確信している」とファン・デン・ブルークは話す。「我々はノンアルコールのポートフォリオに大きな期待を寄せている」 コンステレーション・ブランズの社長兼CEOであるウィリアム・ニューランズ(William Newlands)も同様の楽観的な見方を示している。2024年4月24日の同社の業績発表において、コロナ・ノンアルコール(Corona Non-Alcoholic)が、「ノンアルコール部門でシェア第1位となった」と語っている。 「これは消費者行動の変化、あるいは運転のためにお酒を控えたいと思いながらも美味しいビールを楽しみたい人々が増加していることを反映していると思う」とニューランズは話している。 「我々は、今後もさまざまな製品を通じてより良い選択肢を提供する流れを重視する。コロナ・ノンアルコールは次の会計年度でも引き続き成長すると確信している」 アンハイザー・ブッシュ・インベブのミシェル・ドゥケリス(Michel Doukeris)CEOも、2024年10月21日の業績発表で、ノンアルコールビール部門を「ビールを楽しむ新しい場面を生み出す大きなチャンス」と見ていると語った。ドゥケリスはこの市場の発展が今後も同社の戦略の中心となると強調している。 「2024年第3四半期において、当社は主要市場の60%以上でノンアルコールビールの市場シェアを拡大し、コロナ・セロは売上高と出荷量がいずれも倍増した」とドゥケリスは話している。 「ノンアルコールビールは、現在では当社の世界的な出荷量とすれば少ないが、今後の成長には大きなチャンスがあると考えている」 業界関係者は長い間、「アルコールに対する戦争( アルコールに対する反対運動や規制強化) 」について警告してきたが、2023年末に発表された世界保健機関(World Health Organization :WHO)の報告書を受けて、この警告はさらに強まっている。この報告書には、「少量のアルコールでもがんのリスクを高める」と示されており、「がんや健康に関して安全なアルコール摂取量は確立できない」と指摘されている。 しかし、アルコール販売量が減少するかもしれないという懸念がある中、各ブランドは、消費者のノンアルコールのニーズの変化に対応して全体の収益や業績を支えている。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、ノンアルコールまたは低アルコールのビール、ワイン、スピリッツの世界市場シェアを130億ドル(約2兆4000億円)以上と評価しており、2023年から2027年の間に、売り上げは年間7%を超える成長率を遂げ、最終的にアルコール市場全体の約4%になると予測している。
Katherine Tangalakis-Lippert