TOMORROW X TOGETHERのVRコンサートは“いま、見るべきコンテンツ”だ ファン卒倒の近さとわかりやすさを見事に両立
コロナ禍以降、急速に成長したバーチャルライブ。そのなかでもリアルなアーティストによるものは数あれど、一つの会場に観客を集めて実施するものは多くない。ましてやそれで全国ツアーを展開するという攻めた試みを行うことはかなり稀といっていいだろうし、相当な限定条件の上で成り立つ公演だと考えている。 【写真】こんなに近くていいの? TXTが目と鼻の先で踊ったりファンサをしてくれる『HYPERFOCUS : TOMORROW X TOGETHER VR CONCERT』の模様 TOMORROW X TOGETHERが9月6日より行う初のVRコンサート『HYPERFOCUS : TOMORROW X TOGETHER VR CONCERT』(以下、『HYPERFOCUS』)は、その限定条件を踏まえたうえで観客を楽しませる面白い試みとなっていた。今回は報道陣向けに先んじて行われた試写会に参加をしてきたので、その模様を製作陣のコメントとともに紹介したい。 先んじて、筆者が冒頭で“相当な限定条件”と記していたのは、リアルなアーティストがVRコンテンツを制作する際に「滅多に会えない」「近づいても耐えうるビジュアル/パフォーマンスを持っている」「ハードウェアを手に入れさせなければならない」ことがそもそも前提だからだ。TXTはそもそも韓国/世界を舞台に活躍するグループであり、ビジュアルやパフォーマンスもズバ抜けているなど、前者2つの条件は満たしている。最後が一番ハードルの高い部分となるのだが、今回の公演は映画館にHMD(Meta Quest 3)を観客の人数分用意し、集団でリアルの場に集まって見るコンテンツとして成立させているところにHYBEの本気度を感じた。 とはいえ、TXTのファン=MOAは若年層も多く、VRにそこまで慣れ親しんでいる人は少ないだろう。そうなると、デバイスの方法がわからなかったり、盛り上がる要素や目を塞がれた状態で声を出してもいいという心理的ハードルを外す必要がある。実はこの『HYPERFOCUS』、日本での公演が初めての試みではなく、これまで韓国とアメリカですでにツアーが行われてきている。それらを経て最適化されているのか、はたまた制作を手がけるAmazeVRのノウハウが詰め込まれているのか、とにかく“スムースなコンテンツ体験”ができたのだ。 デバイスの操作方法についても、スクリーンに手順(マスクをつける→ベルトを緩める→HMDを装着する→ベルトを締める)と例となる絵を映し出してわかりやすく解説しているし、スタンドアロン型デバイスの欠点である電池切れにも、各座席に充電ケーブルを設置し、手順のなかで装着させることで対応している。『Meta Quest 3』はハンドトラッキングでの操作にも対応しているが、初見で手が使えると理解するのは難しいだろう。だが、装着後に長々しい説明もなく、ジュエルを触らせたり、ペンライトを受け取らせたりすることによって、自然と「手を伸ばせば反応するもの」と認識し、以降の操作もスッと入ってくる内容となっている。これまでVR慣れしていないユーザーに向けた体験の模様や案内を数多く見てきたが、一番わかりやすかったと言っても過言ではない。 その後、コンテンツは序盤でいきなり“推しメン”を選択する画面へと移っていく。ただ、メンバーを選択することで、このあとどういうメリットがあるのかが明示されておらず、不明瞭だったことは記しておきたい。実際に見るMOAの方にネタバレなしで表現するならば「二回ほど選択したメンバーがソロで近づいてくれる演出がある」「全体パフォーマンス時の推しカメラ的なものはない」とだけ伝えておくとしよう。 いよいよ本編がスタートして気づくのだが、映像が綺麗で音もいい。それもそのはず、映像は12Kと高解像度だし、音は映画館の5.1chサラウンドシステムを使った音響を浴びているのだから、まるでリアルなライブに行ったかのように、ボディソニックも感じることができる。映像はモーションコントロールカメラ(細かい動きをコンピューターで制御しているカメラ)で撮影されているため、決まった場所に決まった秒数で動くのだが、そこにメンバーのダンスやパフォーマンスが一致することで、各パートで一番爆発力があるシーンをしっかりと正面で見ることができるようになっている。プレスリリースでは“最前列以上の近さ”とあるが、距離で言うとメンバーの顔と数cmの近さになるシーンもあるため、列がどうこうの騒ぎではない。鼻がくっついてるのではないかと錯覚するレベルだ。韓国のファンが「最前列のファンではなく、むしろメイクアップアーティストになってメイクができる近さ」と言っていたのもうなずける。 また、AmazeVRのイ・スンジュンCEOは撮影の現場で、メンバーに「カメラのことをファンだと思ってアイコンタクトや表情づくりをしてほしい」とディレクションしたことを明かしてくれた。結果として、細かいメンバーの仕草やファンサービスが随所で見られるのもMOAにとっては嬉しいポイントだろう。 セットリストも「Sugar Rush Ride」「Magic Island」「Good Boy Gone Bad」「Tinnitus (Wanna be a rock)」「Deja Vu」「MOA Diary (Dubaddu Wari Wari) [Japanese Ver.]」と、彼らの幻想的な部分・激しい部分・クールな部分・キュートな部分をしっかりと感じさせてくれるし、「Good Boy Gone Bad」の冒頭でBEOMGYUが薔薇の花に火をつける場面や、「Deja Vu」でのYEONJUNの回し蹴りなど、至近距離だからこそ「火が近い!」「足が当たりそう!」と演出を違った感覚で味わうこともできる。 また、VRだからこその演出として、メンバーのダンスシーンにVFX映像がレイヤーされることで、異世界にいるような感覚を味わえたり、曲の途中でヘリコプターが迫ってきたりと、アトラクションのような特殊効果を味わうこともできる。これについてはVFXスーパーバイザーを務めたキム・ホンチャン監督が「TOMORROW X TOGETHERは独特なコンセプトと華麗なパフォーマンスと素晴らしい曲を持っているため、HYBEやBIGHITと協力して、世界観を壊さないままで、みなさんが満足できるよう製作した」と語っているとおり、ノイズにはならず、むしろ彼らのパフォーマンスを増幅させ、ときには世界観や衣装がスイッチする場面の繋ぎ目にもなっている。 そのうえ、日本のMOAにとってのサプライズはセットリストの最後に披露される「MOA Diary (Dubaddu Wari Wari) 」だろう。メンバーが作詞に参加したMOA(ファンの呼称)への思いを詰め込んだファンソングとして人気の高い楽曲を、韓国やアメリカでは公開されていない日本語版でオリジナルパフォーマンスとともに披露されるわけだからたまらない。 この『HYPERFOCUS』は、9月6日から12月1日まで全国5都市の映画館で上映予定。MOAの方々はもちろんのこと、新しいエンタメ好きは今後のフォーマットになるかもしれない体験を味わいに、ぜひ劇場へと足を運んでみてほしい。 <セットリスト> 1. Sugar Rush Ride 2. Magic Island 3. Good Boy Gone Bad 4. Tinnitus (Wanna be a rock) 5. Deja Vu 6. MOA Diary (Dubaddu Wari Wari) [Japanese Ver.]
中村拓海