韓国大統領公邸〝要塞化〟続く緊張 拘束中断1週間、捜査本部は衝突も辞さず
【ソウル山口卓】韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が出した「非常戒厳」を巡り、高官犯罪捜査庁(高捜庁)などによる合同捜査本部と尹氏側のにらみ合いが続いている。尹氏には内乱容疑などで2回目の拘束令状が出ているが、大統領警護庁が公邸敷地内に入ろうとする警察を阻止し、執行できていない。捜査本部は警護庁を排除するために機動隊の投入も検討しており、衝突も辞さない構えだ。 尹氏の弁護団は9日の記者会見で、高捜庁に内乱罪の捜査権限がないとあらためて主張。高捜庁が再請求し、ソウル西部地裁が7日に発付した拘束令状について「憲法裁判所に効力停止の仮処分を申請した」と明らかにした。 3日に捜査当局が令状執行に乗り出した際、尹氏側は警護庁と軍の約200人を動員し、バスで公邸の入り口をふさぐなどして抵抗した。警護庁トップの朴鍾俊(パクジョンジュン)氏は5日の声明で「今後も国民が選んだ大統領の安全確保に身命をささげる」と強調。鉄条網を増設するなど公邸を「要塞(ようさい)化」(韓国メディア)し、次の執行にも徹底抗戦で臨む。 尹氏側は8日、捜査当局が起訴した場合や、ソウル中央地裁が逮捕状を発付した場合には刑事裁判に「応じる」と表明。譲歩する姿勢を見せるが、いずれも一定の時間や労力がかかるとみられ、聯合ニュースは「(尹氏側が)身柄確保をできる限り遅らせようとしている」と指摘している。 一方、捜査本部は次の執行に向けて準備を加速。韓国メディアによると、警察は暴力団など犯罪組織の制圧にも当たる「刑事機動隊」の投入を検討し、捜査員も約300人に倍増する方針だ。高捜庁の呉東運(オドンウン)長官は「『次の執行が最後だ』との覚悟で徹底的に準備して最善を尽くす」と話す。 新たな令状の有効期限は明らかになっていない。公邸前では尹氏を支持する保守系のデモ集会が連日開かれており、執行妨害の恐れがあることから、聯合は集会参加者が少ない平日の執行が有力だと報じている。 また、捜査本部は朴氏らを公務執行妨害の疑いで立件することを視野に、10日までに出頭するよう要請している。応じない場合、強制捜査の可能性を示唆し、揺さぶりをかける。 尹氏の弾劾の妥当性を判断する憲法裁は、14日に第1回弁論を開く。野党議員らによる国会弾劾訴追団は審判の迅速化を優先し、内乱罪の立証を撤回して戒厳令宣言の違憲性を訴えることに集中すると表明。尹氏の弁護団は9日、「内乱罪の撤回などが提起されたので、争点が整理されれば尹氏が出席する」と述べた。 尹氏は、国会で弾劾訴追案が可決された昨年12月14日以降、姿を現していない。逃亡したとの疑惑が一時浮上したが、弁護団は「公邸にいて疑う余地はない」と否定。「大統領は外見上は健康だ。戒厳令を宣言した目的を達成できないのではないかと心配している」と話した。