勘九郎・七之助の魅力満載! 勘三郎十三回忌追善公演
2月の歌舞伎座は、十八世中村勘三郎十三回忌追善と銘打ち、「猿若祭二月大歌舞伎」を上演中。「猿若祭」は、1624年に初代の猿若(中村)勘三郎が江戸で初めて猿若座(のちの中村座)の櫓を上げ、歌舞伎興行が行われたことを記念したもの。400年を経て勘三郎の十三回忌追善が上演されるという巡り合わせもあり、中村屋にとってもファンにとっても特別な興行となっている。笑いあり涙あり、胸に迫る名作ありと、“お客様を楽しませる”ことに全力を注いでいた勘三郎の芸を、改めて感じる演目が揃った。 今回は昼の部から『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』を。勘三郎の当り役・佐野次郎左衛門を勘三郎の長男・中村勘九郎が、女方の大役・兵庫屋八ツ橋を次男の中村七之助がどちらも初役で勤めている。 幕が開くと、そこは桜が咲き誇る吉原。上州の商人・佐野次郎左衛門(勘九郎)と下男の治六(中村橋之助)は偶然、吉原一の花魁・八ツ橋(七之助)の花魁道中に行き会う。辺りを払うような美しさの八ツ橋に、ひと目で心を奪われる次郎左衛門。半年後、田舎者ながら器の大きさで吉原に馴染んだ次郎左衛門に、八ツ橋の身請け話が出る。だが八ツ橋には、繁山栄之丞(片岡仁左衛門)という情夫がいて……。 次郎左衛門は“あばた顔の田舎者”という人物だが、近年は二枚目の役どころもハマっている勘九郎だけに、父・勘三郎のような“泥臭さ”は少なめ。その分、どこにでもいる青年が華やかなスターに憧れ、相手の好意に有頂天になる様子から、失意のどん底へ、さらに凶行を起こすまでが痛いほどリアルに描かれる。八ツ橋を演じる七之助は、“この世ならざる”という表現にピッタリの美しさ。花魁道中に登場したときの客席のざわめきがその証左だろう。ふと次郎左衛門に視線を投げかける表情には、客席もハッと息を呑むほど。新たな八ツ橋の誕生を印象づけた。その2人に対峙する八ツ橋の情夫・栄之丞の仁左衛門は、さすがの存在感。なにげない仕草や視線だけで、その場を支配する色男ぶりが伝わってくる。 昼の部(11時開演)は他に、勘三郎の部屋子・中村鶴松が初役で久作娘お光を勤める『新版歌祭文 野崎村』と、中村獅童らの楽しい『釣女』。夜の部(16時半開演)は、勘九郎の長男・中村勘太郎の歌舞伎座初主演『猿若江戸の初櫓』と、中村芝翫がいがみの権太を演じる『義経千本桜 すし屋』。最後は勘九郎の次男・中村長三郎が初めて挑む『連獅子』と、どれも見応えたっぷり。改めて中村屋の底力を感じる「猿若祭」となった。 取材・文/藤野さくら <公演情報> 十八世中村勘三郎十三回忌追善 猿若祭二月大歌舞伎 公演日程:2024年2月2日(金)~26日(月) 会場:歌舞伎座 ※無断転載禁止