「9.2億円の無駄遣いか…」葛飾区“借地問題”裁判で「口利きあった?」に副区長は「否定せず」の怪
《ジャーナリスト・阿部光利の『地方政治を斬る!』》 「児童相談所設置をめぐり土地代がかからない区有地を活用しないで民有地を借り上げ毎月莫大な賃料を支払っているのは不利益である」 葛飾区『学校給食完全無償化』発表の裏にあった保育所誤支給問題 として葛飾区に対して行われている住民訴訟。12月18日には現役の副区長が証人として出廷した。 ’23年10月1日に民有地で開設された葛飾区児童相談所・一時保護所。他の自治体では事業用定期借地権の民有地に建設していないにもかかわらず、葛飾区では“区長の専決処分”としていわば“鶴の一声”で設置されたのである。 他の自治体が事業用定期借地権の民有地に児童相談所・一時保護所を建設しないのは、権利内容が不安定(期間満了までに施設は解体しなければならない等)であり、利用する子どもたちの為にならないためであるとされている。 葛飾区は、区の意向で活用できる土地を多数保有する大地主である。それが、なぜ事業用定期借地権の民有地に公共施設を建設しなければいけないのか素朴な疑問が残る。 更には、当該土地を所有する地主と区との関係も取りざたされているのである。 葛飾区は定期借地に公共施設を整備したことで毎月約220万円の地代を支払っており、35年後には更地にして地主に返還しなければならない。 土地の評価額が約7.4億円であるが、35年間の地代総額が約9.2億円にも上る。これだけ負担しても、区民には何の資産も残らない状況が生まれる。 審議の段階では、都有地の活用の選択もあり都有地活用であれば最少経費で建設可能とされていた。事実、先行して児童相談所を開設している江戸川区では、都有地を購入して開設している。 この点を原告代理人弁護士から問われた副区長は法廷で 「相談しても東京都に断られると思い相談もしていない」 と証言している。 更には、原告から旧東堀切小学校跡地(区有地)での具体的な整備提案があったが、こちらも採用されず、結果、都有地、区有地を活用することなく事業用定期借地権の民有地での開設が決定したのである。 今回裁判を傍聴して驚いたのは、民有借地に決定したプロセスや決定要因の比較検討をする書類はないと副区長が証言したことである。児相建設が約25.5億円。地代総額が約9.2億円。こんな大きなプロジェクトの土地選定の書類がないのである。 住民訴訟では行政手続きの誤りと不当な鑑定評価が指摘されている。 区が民有借地での児相建設を決定したのが’17年5月26日であるが、民有地の地主との交渉が始まったのが’18年5月頃からであり、民有地活用決定後に交渉を始めているのである。 傍聴した葛飾区の住民は 「はじめから民有借地で決まっていたのではないか。地主は区に影響力のある人だから」 と話している。 原告代理人弁護士が繰り返し副区長に質していたのは 「35年後には更地にして地主に返却する条件である。25億5900万円かけて建設したものを壊して更地にしなければいけない。葛飾区区有建築物保全工事計画策定方針では、公共施設の耐用年数は60年以上の活用を目安と考えている。なぜコストを考えないのか? 土地の評価額が約7.4億円なのに35年間の地代総額が約9.2億円。購入するか賃料のかからない区有地にするか安い都有地の選択があったはずなのに何故、当該民有地で事業用定期借地権での建設に至ったのか?」 これに対し副区長からは 「(民有借地は)区の中心地に位置しており警察署が近く、繁華街からは少し離れていることが条件上最適であった」 との回答が繰り返されるのみであった。が、旧東堀切小学校跡地(区有地)の位置も当該土地と遜色がないのに、候補に残らなかったことにも疑問が残る。 この点を法廷終了後に副区長に直撃したところ葛飾区総務部長に 「裁判でお話ししましたので」 と遮られて聞けずじまいであった。 原告代理人弁護士から 「選定の際に誰かから口利きがあったのか」 との質問には明確に否定しなかった副区長。庁内では有力者からの紹介案件との情報が飛び交っており、原告も聞いたことがあるそうだ。 とすると、法廷でYESとNOをハッキリ証言していた証人が、上記の質問には明確に否定しなかった背景は何だったのだろうか……。 候補地の選定の際には購入金額、地代、賃借期間など定まっていないのに民有借地に決定。そのプロセスを辿る書類がないのは、意図的なのではないかと捉えられかねない。 更には、区有施設を60年使用する区の方針に反して35年で解体して更地にして地主に戻す。なんとも経済合理性のない不効率な契約であり民間では考えられない無駄遣いである。徹底した透明性を求めたいが、今回の裁判で住民である原告の不信感は増幅したのではないだろうか――。 まだまだ解明されていない、葛飾区の児相をめぐっての契約と開設。次回の裁判は、’24年2月28日である。 取材・文:阿部光利(地方政治ジャーナリスト、元TVリポーター) TVリポーターとして『タイム3』『おはよう! ナイスデイ』『とくダネ!』(フジテレビ系)など8番組で活動。オウム真理教事件・阪神淡路大震災など延べ1500件の事件事故を取材。広告代理店経営を経て、区議会議員を2期8年在籍。その後、衆議院議員の公設第一秘書に就任。現在は行政の諸問題や社会問題などを独特の視点で取材、執筆活動を続けている。
FRIDAYデジタル