【イベントレポート】ニア・ディナタ×三島有紀子、インドネシアの検閲事情や映画作りの原点をトーク
インドネシア出身の映画監督ニア・ディナタと、「一月の声に歓びを刻め」で知られる映画監督・三島有紀子が、本日11月3日に東京・LEXUS MEETS...で行われた「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」に出席した。 【画像】左からニア・ディナタ、三島有紀子 第37回東京国際映画祭では、アジアの未来部門審査委員を務めるディナタ。彼女は「今日は有紀子さんとお話をすることができ、うれしいです。同い歳なので共通点もあると思います」と笑顔で挨拶する。三島はディナタの作品について「インドネシアのイスラム教の問題などを描いていますが、遠い国の話とは思えない“私たちの映画”という思いで観ています。『分かち合う愛』では、一夫多妻制がいかに女性を苦しめるかという点が描かれていましたが、映画にするには大変だったのでは」と言葉を紡ぐ。 三島の発言を受け、ディナタは「不思議なことに2003年に『アリサン!』を撮ったときは、特に問題なく検閲が通ったんです。当時は政治的改革のたった5年後で、政府も保守的でしたから驚きました。でも2006年の『分かち合う愛』では書面で注意事項が記載されていて、セックスシーンは大幅にカットされました。2016年の『三人姉妹』では、姉妹たちがビキニを着ていることが問題視され、何度もミーティングに呼ばれたんです。最終的には21歳以上なら鑑賞可能というルール付きで公開されました」とインドネシアの検閲の厳しさを説明。また彼女は「『三人姉妹』のときは心が折れました。国際映画祭に出品されるのは私にとってボーナスで、まずはインドネシアの人々と映画を通してコミュニケーションを取りたいと思ったのに。子供を産んで、その子を取り上げられたような気持ちになりました」と胸中を明かした。 ディナタは三島の監督作「幼な子われらに生まれ」について「主人公の男性の人間性を、玉ねぎの皮を剥いていくように明らかにしていくところが重要だと思いました。彼にしっかりフォーカスしていて、男性像の描き方が非常に素晴らしかったです」と称賛する。三島は自身の監督作「Red」にも触れながら、「男性がどのような言葉を発し、行動しているかを描かなければ、女性を取り巻く状況は見せられないと思い、男性のキャラクターを掘り下げています」と語った。 MCから映画作りの原点を尋ねられたディナタと三島。ディナタは「高校を卒業した当時、インドネシアで作られている映画は年に1本程度でした。その頃は資格を取らないと映画監督にもなれない、おかしなルールがあったんです。親に反対されましたが、私はニューヨークの映画学校で学び、その後テレビCMの助監督をしていました。1998年に政治的改変があってからは、映画が作りやすくなりました」と回想する。また「なぜ映画の道を志したのか」と質問されると、ディナタは「三島監督も一緒だと思いますが、映画が大好きなんです! 父親の仕事の都合でサウジアラビアに住んでいたとき、マンションの図書館で映画をずっと観ていました。映画が友達だったんです。カメラの前に出るのは興味がなくて、ただ『作りたい』と思った。それが私の情熱です」と述べる。三島は「私も映画学校に行こうとしたら、親から猛反対されました。でも父が『映画を撮るなら映画以外の知識や教養を得るように』とアドバイスをくれて、まずは心理学を学んだんです。そこから自主映画を撮ることになりました」と振り返った。 日本映画で好きな作品を問われたディナタは、黒澤明の監督作や「Red」「万引き家族」を挙げる。さらに「アニメの『一休さん』は毎日観ていました!」と明かし、「一休さん」のメロディを口ずさんで会場を盛り上げた。