データ参考に魔球「完コピ」、タブレット持ち歩く伊藤大海2冠…3割打者が激減する「投高打低」の背景
20年前は36人いた3割打者、わずか3人
一方、2022年に打率3割4分7厘で首位打者を獲得した同僚の松本剛は、今季、2割台前半に沈んだ。「直球と同じ腕の振りで変化球を投げる投手が増え、空振りを奪えるような球種も増えている。投手のレベルが上がり、成績を残し続けるのが難しくなっている」と実感を込める。
「一流」の証しとされてきた打率3割は今や高い壁だ。セ・パ両リーグで今季の到達者は3人。1950年の2リーグ制導入後、過去最少だった昨季の5人を下回った。20年前は36人いたことを踏まえると、もはや「絶滅危惧種」に近づいているかもしれない。
直球の平均球速上昇も拍車をかける。データスタジアム社(東京)によると、12年はセ・パ共に140キロ前後だったが、今季はセが146キロ、パが147キロに達した。それに伴って中間球の球速も上がっており、柏野氏は「球種を見極められるポイントが自分に近いほど打者が反応に使える時間が短くなる」と指摘。速度が増すことで中間球はより効果的になるという。
伊藤はタブレット端末を持ち歩き、自身やMLBのデータから常にヒントを探す。「僕らが小中高でやってきた感覚のままプロでやると違う競技に近いくらい、ものが違う。勉強できないと置いていかれる」と言う。そして、「投高打低」の現状を踏まえて強調する。「1点の重みが増している」
打者は「予測能力」カギ
打者が投球を打つ際、脳による複雑な情報処理が短時間で行われている。マウンドから150キロ台の球を投げた場合、本塁到達までおよそ0・4秒。打つ動作は神経や身体の特性上0・2秒ほどかかるため、投球フォームや球の最初の挙動などで到達点を読む瞬発的な「予測能力」が鍵を握る。
柏野氏によると、予測能力を高めるには実際に打席に立って学習するのが最も効果的だという。球速アップや変化球の精度が上がるなど、投手側の進化が止まらない以上、その球に慣れていくしかないそうだ。
打者が過去の投球データから練った対策を逆手に取ろうと試みる器用な投手もいる。